野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

(みかど)でさえ姫宮(ひめみや)のご将来を心配して婿(むこ)探しをなさる時代なのだ。私のような貴族が、娘にぼんやりと年を取らせているわけにはいかない」
夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様は皮肉(ひにく)めいたことをおっしゃって、明石(あかし)中宮(ちゅうぐう)様に何度もお願いなさる。
中宮様にとって大臣様の(はら)(ちが)いの兄君(あにぎみ)だから、なんとかしてさしあげたいとお思いになるの。
匂宮(におうのみや)様をお呼びになっておっしゃる。

「夕霧大臣様がお気の毒ですよ。(ろく)(きみ)をあなたと結婚させたいと、長年丁重(ていちょう)に申し入れてこられたのです。いつまでも逃げまわっていらっしゃるのは思いやりが足りません。それに、同じ親王(しんのう)として生まれても、正妻(せいさい)の実家に勢いがあるかどうかで将来に差が出ますからね。帝はそろそろ引退なさるおつもりのようです。東宮(とうぐう)が次の帝におなりになるのは決まっていますが、では次の東宮はどなたになるのか。ご自分の将来を思えば、こんなところで(そん)をなさっていてはいけません。

宇治(うじ)姫君(ひめぎみ)に遠慮していらっしゃるのでしょう。こっそりと恋人になさったそうですね。とりあえず六の君を妻にして、その後で妻が増えても、夕霧大臣様のようにうまくおやりになったらよいではないですか。大臣様はふたりの奥様を平等にお(あつか)いになって、どちらからも(うら)みを買わずに暮らしておいでですよ。ましてあなたの場合、もし東宮におなりになれば、お(きさき)など何人いらしてもよいのです」
と、いつもよりも熱心に言い聞かせなさった。

匂宮様としても、六の君とのご結婚が()()り合いだとはお思いにならない。
ただ、夕霧大臣様の婿になるというのが窮屈(きゅうくつ)なのよね。
(かた)(くる)しい大臣様のお屋敷で、きちんとした婿君であることを求められる。
二条(にじょう)(いん)での気楽な暮らしが終わってしまう。しかし中宮様がおっしゃるとおり、夕霧大臣に完全に(にく)まれるのは(とく)ではない>
だんだん気弱になっていかれる。

この冬、宇治の大君(おおいぎみ)がお亡くなりになった。
悲しみに(しず)む薫の君の(うわさ)をお聞きになって、中宮様は中君(なかのきみ)のことも立派な姫君(ひめぎみ)なのだろうとお認めになる。
ついに、
「それほどの姫君なら、こっそりと二条の院へ迎えておあげなさい」
とお許しになったの。
こうなると大臣様と匂宮様の競争になる。
大臣様は年明けのご結婚を希望していらっしゃる。
宮様は年が明けて二月のはじめ、いそいで中君を二条の院へお迎えになった。