野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

(おんな)()(みや)様が三条(さんじょう)のお屋敷にお引越しなさる日が近づいている。
(うらな)いによると、しばらく三条の方角へのご移動は縁起(えんぎ)が悪くなるようですので」
という理由で、四月の初めのうちにお引越しなさることになった。
その前日、(みかど)は、女二の宮様の藤壺(ふじつぼ)(ふじ)(うたげ)を開催なさった。
お身内でのお別れの会というのではなく、公式行事として立派な準備がされる。
夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様をはじめとした貴族たちはもちろん、親王(しんのう)様たちもご出席なさった。

藤壺の隣の建物では専門家たちが演奏をしている。
藤壺でも帝や貴族たちによる音楽会が始まった。
女二の宮様は宝物の楽器を提供(ていきょう)なさって、大臣様たちがそれらを帝の御前(ごぜん)にお運びする。
(かおる)(きみ)母君(ははぎみ)である尼宮(あまみや)様からも楽器が提供された。
亡き(ちち)上皇(じょうこう)様から相続(そうぞく)なさった宝物よ。

薫の君はご自分の(ふえ)を持っていかれた。
この笛は、薫の君の本当の父君(ちちぎみ)である、衛門(えもん)(かみ)様が愛用なさっていたものよ。
遺品(いひん)として夕霧大臣様が受け取られたけれど、大臣様から亡き源氏(げんじ)(きみ)経由(けいゆ)して、薫の君のお手に渡った。
衛門の督様のご遺志(いし)どおりになったわ。
<以前、この笛の音色を帝がおほめくださった。今回の華やかな宴ほどこの笛にふさわしい場はないだろう>
とお持ちになったのでしょうね。

夕霧大臣様に和琴(わごん)匂宮(におうのみや)様に琵琶(びわ)というように帝が与えていかれる。
薫の君は最高の音色で笛をお吹きになった。
貴族のなかで歌の上手な人が歌って、楽しく夜が過ぎていく。