野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

ぜひ若君(わかぎみ)を拝見したいと(かおる)(きみ)はおっしゃる。
中君(なかのきみ)としては恥ずかしいような気もなさるけれど、お断りはしにくい。
<『自分を身内のように思ってくれないのか』と(うら)まれたくない。私への恋心だけははっきりと(こば)むつもりだけれど、それ以外のことはすべてお望みどおりにしよう>
何もお返事はなさらないまま、乳母(めのと)()かせて若君を(すだれ)のむこうへお出しになった。

匂宮(におうのみや)様と中君のお子なので、当然お美しい。
ぞくりとするほど色白で、楽しそうにお声をあげては笑っていらっしゃる。
<これが私の子だったら>
薫の君はうらやましくなってしまわれる。
「早く出家(しゅっけ)したいから気がかりになる家族などいらない」というお考えだったのにね。

大君(おおいぎみ)とふつうの夫婦になって、せめてこのような忘れ形見(がたみ)(のこ)してほしかった>
と悲しくなるばかり。
(おんな)()(みや)様にお子ができたら、とはまったくお考えにならない。
困ったお心だこと。

あら嫌だ。
薫の君のことを未練(みれん)がましいだけの人のようにお話ししているけれど、そういう面ばかりではないと思うのよ。
そんな頼りがいのなさそうな人を、(みかど)が特別に大切になさって、内親王(ないしんのう)様の婿(むこ)にとまでお考えになるはずはないもの。
きっと表向きは、きちんとしたご立派な貴公子(きこうし)でいらっしゃるのでしょうね。

若君を見せてくださったことがうれしくて、いつもよりお話がはずんでいるうちに日が暮れた。
これ以上長居(ながい)してはよくないと薫の君は分かっていらっしゃるから、(なげ)きながらご退出なさる。
若い女房(にょうぼう)たちはのんきに、
「すばらしい(のこ)()ですね。まるでここに梅の花が咲いているみたい。勘違いした(うぐいす)が飛んできてしまうのではないかしら」
なんて冗談(じょうだん)を言っている。