野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

それからはこっそりと内裏(だいり)(おんな)()(みや)様のところへお通いになる。
大君(おおいぎみ)のことがまだ忘れられなくて、昼間は三条(さんじょう)のお屋敷でぼんやりとなさっている。
日が暮れると、不本意(ふほんい)だけれど女二の宮様のところへお上がりになる。
こういうご結婚生活にどうしても慣れなくて、
<宮様を三条(さんじょう)(てい)にお移ししよう>
と思いつかれる。

母君(ははぎみ)尼宮(あまみや)様にご相談なさると、尼宮様はとてもおよろこびになった。
女二の宮様は尼宮様の(めい)でいらっしゃるもの。
「ここをお(ゆず)りしましょう」
お屋敷の一番大きな建物からご自分は出てもよいとおっしゃるのを、
「それは申し訳ありませんから」
と薫の君は辞退なさった。

いろいろと工事をなさって、建物の西側は尼宮様のお住まい、東側は女二の宮様のお住まいになさるみたい。
火事があった後に美しく建て直されたお屋敷を、さらに(みが)き立ててご準備なさる。

このご計画が(みかど)のお耳にも入った。
<結婚して間もないのに、もう気安く婿(むこ)の家に移ってしまうのか>
恐れ多い帝であっても、お子のこととなるとふつうの心配性な父君(ちちぎみ)になってしまわれるのよね。
妹君(いもうとぎみ)である尼宮様にお手紙をお送りになって、ひたすら女二の宮様のことをよろしくお頼みなさる。
帝は尼宮様を、他の妹君たちと同列には思っていらっしゃらない。
亡き上皇(じょうこう)様がとくに大切にしてほしいと言い(のこ)された妹君だもの。
そのおかげで、尼宮様は今も、上皇様に守られていたころと同じようにお暮らしになっている。

そんな尼宮様や帝から大切にされているというのに、薫の君はそれをうれしいともお思いにならない。
ぼんやりと物思いにふけって、宇治(うじ)のお堂の工事だけを気にして急がせていらっしゃる。