野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

夜が明けたので都へお帰りになる。
持っていらっしゃった着物の布地(ぬのじ)などを山寺(やまでら)阿闍梨(あじゃり)にお贈りになった。
(べん)(あま)にもおやりになる。
心細い山荘(さんそう)暮らしだけれど、(かおる)(きみ)援助(えんじょ)のおかげで、身分のわりに優雅に仏教の修行(しゅぎょう)ができているの。

()()らしが激しく吹いたから、木々から葉がすっかり落ちてしまった。
地面を(おお)紅葉(もみじ)は誰にも()()らされていない。
薫の君はそれを見渡して、なかなかご出発する気になれずにいらっしゃる。
老木(ろうぼく)にからまった(つた)の葉だけはまだ残っていた。
中君(なかのきみ)へのお土産にしよう」
と、少し取らせなさる。

(さみ)しいところだな。かつてここに泊まった思い出があるから一晩過ごせたが」
(ひと)(ごと)をおっしゃったのが聞こえて、弁の尼がお返事した。
大君(おおいぎみ)中君(なかのきみ)もいらっしゃらなくなった古い山荘ですのに、ここであったことをあなた様は覚えていてくださるのですね」
年老いた女房(にょうぼう)だけれど、それなりにたしなみ深さがある人よ。
このやりとりで薫の君のお心は少し(なぐさ)められたみたい。