薫の君はこのついでに、中君がおっしゃった人形のお話をなさった。
弁の尼も知っていたみたい。
「くわしくは存じませんが、昔、とある女房が八の宮様のお子をお生みしたとか。亡き八の宮様がまだ宇治へお移りになる前、ですからもう二十年ほど昔のお話でございます。ご正妻がお亡くなりになって間もないころ、中将の君という上級女房にひそかにお情けをおかけになったようなのです。
中将の君が女の子を出産しても、周りは誰が父親なのか知りません。しかし、宮様だけはお心当たりがおありになったのでしょう。面倒にお思いになって、二度と中将の君にお声をおかけになることはなかったそうでございます。宮様はそれに懲りて、ほとんど僧侶のようなご生活を始められました。気まずくなった中将の君は女房勤めを辞めると、幼い姫君を連れて地方長官と結婚しました。ここまでのことは人づてに聞いた話でございます。私はまだそのころ宮様にお仕えしておりませんでしたので。
何年か前、中将の君は夫の赴任地から都へ戻り、この山荘に手紙を寄越してまいりました。姫君も元気でいらっしゃるという内容でしたが、それをお聞きになった宮様はお怒りで、『そのような知らせはいらぬ。私には関係がない』とおっしゃったのです。中将の君はそれを知ってがっかりしながら、夫の次の赴任地である常陸の国へ下りました。近ごろはとくに噂も聞かずにおりましたが、今年に入って一家でまた都に戻ったようでございますね。二条の院の女房から、夏ごろ中将の君と姫君が、中君にご挨拶にやって来たというような話を聞きました。
姫君は二十歳くらいにおなりでしょう。常陸の国へ下ってすぐのころは、『姫君がかわいらしくお育ちになっているのが悲しい』というようなことを、ここの女房たちに手紙でこぼしておりました」
弁の尼も知っていたみたい。
「くわしくは存じませんが、昔、とある女房が八の宮様のお子をお生みしたとか。亡き八の宮様がまだ宇治へお移りになる前、ですからもう二十年ほど昔のお話でございます。ご正妻がお亡くなりになって間もないころ、中将の君という上級女房にひそかにお情けをおかけになったようなのです。
中将の君が女の子を出産しても、周りは誰が父親なのか知りません。しかし、宮様だけはお心当たりがおありになったのでしょう。面倒にお思いになって、二度と中将の君にお声をおかけになることはなかったそうでございます。宮様はそれに懲りて、ほとんど僧侶のようなご生活を始められました。気まずくなった中将の君は女房勤めを辞めると、幼い姫君を連れて地方長官と結婚しました。ここまでのことは人づてに聞いた話でございます。私はまだそのころ宮様にお仕えしておりませんでしたので。
何年か前、中将の君は夫の赴任地から都へ戻り、この山荘に手紙を寄越してまいりました。姫君も元気でいらっしゃるという内容でしたが、それをお聞きになった宮様はお怒りで、『そのような知らせはいらぬ。私には関係がない』とおっしゃったのです。中将の君はそれを知ってがっかりしながら、夫の次の赴任地である常陸の国へ下りました。近ごろはとくに噂も聞かずにおりましたが、今年に入って一家でまた都に戻ったようでございますね。二条の院の女房から、夏ごろ中将の君と姫君が、中君にご挨拶にやって来たというような話を聞きました。
姫君は二十歳くらいにおなりでしょう。常陸の国へ下ってすぐのころは、『姫君がかわいらしくお育ちになっているのが悲しい』というようなことを、ここの女房たちに手紙でこぼしておりました」



