<すぐに取り壊しが始まれば、この山荘を見るのも今日が最後になるだろう>
と、建物のなかを歩いてお眺めになる。
亡き八の宮様のお形見の仏像は、すでにすべて山寺へ移してある。
弁の尼の修行の道具だけが置いてあった。
<こんな寂しいところでどうやって暮らしているのだろう>
と気の毒にお思いになる。
「この山荘は建てなおそうと思う。工事の間も一部はそのままにしておくから、そちらの部屋で暮らしておくれ。もし中君の持ち物が残っていたら、私の領地の者に知らせてほしい。二条の院へ運ぶよう伝えておく」
こまごまとしたことまで弁の尼に丁寧にお話しなさる。
三条のお屋敷にいらっしゃるときなら、このような老女房をおそばに置かれることはない。
でも、ここでは弁の尼を近くで寝かせて、昔の話をおさせになるの。
薫の君の実の父君である、亡き衛門の督様のことも話題に上る。
誰も聞いている人がいないから、弁の尼は安心してくわしくお話しした。
「あなた様がお生まれになって間もなくお亡くなりになりました。『さぞかしかわいらしいだろう、一目会いたい』と切なそうになさっていたお姿が今もまぶたに浮かびます。そのお子にこうしてお目にかかることになるとは想像もしておりませんでした。衛門の督様に乳母子として親しくお仕えしていた証のようで、うれしくも悲しくも思われます。
長生きしてしまったせいで、何人もの主に先立たれました。衛門の督様、八の宮様、大君、この世は儚いものだと思い知らされてつろうございます。
中君からはときどきお手紙を頂戴いたします。『たまには都に上って顔を見せるように。そんなふうに宇治に引きこもってばかりいたら、私を嫌っているのかと思ってしまう』と仰せくださいますが、不吉な尼姿でございますから。今はただ仏様のお迎えだけをお待ちしております」
大君のことになると弁の尼の思い出話は止まらない。
長年のご様子、どんなときに何とおっしゃったか、花や紅葉を見て詠まれた和歌などを、年寄りくさい震え声だけれどしんみりと申し上げる。
<たしかに控えめで大人しい方だったが、奥ゆかしいお人柄はすばらしかった。中君はもう少し現代的でいらっしゃる。それでいて近づこうとする男をきっぱり拒否する慎み深さはおありのようだ。しかし私にだけはきっぱりした態度をお取りになれず、なんとかさりげなくかわそうとなさっている>
ご姉妹それぞれのご性格を、お心のうちで比べていらっしゃる。
と、建物のなかを歩いてお眺めになる。
亡き八の宮様のお形見の仏像は、すでにすべて山寺へ移してある。
弁の尼の修行の道具だけが置いてあった。
<こんな寂しいところでどうやって暮らしているのだろう>
と気の毒にお思いになる。
「この山荘は建てなおそうと思う。工事の間も一部はそのままにしておくから、そちらの部屋で暮らしておくれ。もし中君の持ち物が残っていたら、私の領地の者に知らせてほしい。二条の院へ運ぶよう伝えておく」
こまごまとしたことまで弁の尼に丁寧にお話しなさる。
三条のお屋敷にいらっしゃるときなら、このような老女房をおそばに置かれることはない。
でも、ここでは弁の尼を近くで寝かせて、昔の話をおさせになるの。
薫の君の実の父君である、亡き衛門の督様のことも話題に上る。
誰も聞いている人がいないから、弁の尼は安心してくわしくお話しした。
「あなた様がお生まれになって間もなくお亡くなりになりました。『さぞかしかわいらしいだろう、一目会いたい』と切なそうになさっていたお姿が今もまぶたに浮かびます。そのお子にこうしてお目にかかることになるとは想像もしておりませんでした。衛門の督様に乳母子として親しくお仕えしていた証のようで、うれしくも悲しくも思われます。
長生きしてしまったせいで、何人もの主に先立たれました。衛門の督様、八の宮様、大君、この世は儚いものだと思い知らされてつろうございます。
中君からはときどきお手紙を頂戴いたします。『たまには都に上って顔を見せるように。そんなふうに宇治に引きこもってばかりいたら、私を嫌っているのかと思ってしまう』と仰せくださいますが、不吉な尼姿でございますから。今はただ仏様のお迎えだけをお待ちしております」
大君のことになると弁の尼の思い出話は止まらない。
長年のご様子、どんなときに何とおっしゃったか、花や紅葉を見て詠まれた和歌などを、年寄りくさい震え声だけれどしんみりと申し上げる。
<たしかに控えめで大人しい方だったが、奥ゆかしいお人柄はすばらしかった。中君はもう少し現代的でいらっしゃる。それでいて近づこうとする男をきっぱり拒否する慎み深さはおありのようだ。しかし私にだけはきっぱりした態度をお取りになれず、なんとかさりげなくかわそうとなさっている>
ご姉妹それぞれのご性格を、お心のうちで比べていらっしゃる。



