野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

山寺(やまでら)阿闍梨(あじゃり)をお呼びになって、大君(おおいぎみ)一周(いっしゅう)()のことをお命じになった。
それから、この山荘(さんそう)のことをご相談なさる。
「こちらに(うかが)うたびに大君のことを思い出して悲しくなってしまうのだ。中君(なかのきみ)のお許しをいただけそうなので、この山荘は取り壊して、新しく建てなおしてさしあげようと思う。ただ、亡き(はち)(みや)様はここをお堂にしたいとお考えだった。姫君(ひめぎみ)たちのお住まいでもあったからおできにならなかったが、今はそのご希望も(かな)えてさしあげたい。移築(いちく)という形で、もう少し山寺に近いところに山荘を移し、そこをお堂にしようと思う。

場所を変えずにお堂に改築(かいちく)することも考えたが、中君は匂宮(におうのみや)様の奥様であられる。相続(そうぞく)なさったのは中君でも、一応匂宮様のご資産とも言える山荘だから、勝手にお堂にしてしまうわけにはいかない。それに川に面していて周囲から見えやすいこの場所は、落ち着いて仏教の修行(しゅぎょう)をするお堂にはふさわしくないだろう。八の宮様がせっかくお造りになった山荘を壊すのは心苦しいが、どうせなら少しでも早く工事を始めたい」
お堂の建物の数や、僧侶(そうりょ)の住む場所など、だいたいの規模(きぼ)を書き出してお伝えになった。

「それは(とうと)いお考えでございます。いつまでも大君の面影(おもかげ)を追い求めておられてはいけません。この山荘があるかぎり大君を思い出してしまわれるということでしたら、移築してお堂になさるのもよろしいでしょう。あの世におられる八の宮様や大君のお幸せにもつながると存じます。
ご指示があり次第(しだい)すぐに工事に入らせていただきます。縁起(えんぎ)のよい日を調べなければなりませんね。工事の指示ができる人を二、三人お(つか)わしくださいませ。お堂の細かい設計については、仏教の決まりどおりにいたします」
阿闍梨は賛成して、手伝いを申し出る。

ほっとなさった薫の君は、その他にもいろいろとお決めになる。
近くのご領地(りょうち)の人たちも山荘に呼んで、阿闍梨の指示に従って工事を手伝うようお命じになった。
あっという間に日が暮れて、その夜は山荘にお泊まりになった。