野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

「とある親戚が、夏ごろ私に手紙を送ってきたのです。これまで存在さえ知らなかった人ですから、赤の他人とは思いませんが急に親しくする気にもなれませんでした。それが先日、娘を連れてこちらを訪ねてまいりまして、会ってみますと、その娘はふしぎなほど姉君(あねぎみ)に似ているのです。女房(にょうぼう)たちは、私は姉君とまったく似ていないと申しますのに、どうしてあの娘があんなに似ているのでしょう」

(かおる)(きみ)は<夢のような話だ>と驚かれる。
「どのようなご親戚か存じませんが、あなた様をお訪ねしてきたということは、お世話しておやりになるべきご関係の人なのでしょうね。どうして今まで教えてくださらなかったのですか」
中君(なかのきみ)は少しためらって、
「実は、その娘との関係が世間に広まると、亡き父宮(ちちみや)様の恥になりかねないのです」
と言いにくそうにおっしゃった。

(はち)(みや)様が女房あたりに生ませなさったお子、ということか。母親の身分が低いが、大君(おおいぎみ)や中君の異母妹(いぼまい)だ>
と薫の君は想像なさる。
大君に似ているとおっしゃったことが気になって、
「どうせならすべてお話しください」
とせっつかれるけれど、中君ははっきりとはお話しになれない。
八の宮様が女房に手をおつけになった上、お子まで生ませていらしたなんて、たいして(めずら)しい話ではないけれど、できれば宮様の名誉(めいよ)のために(かく)しておきたいわよね。

「その母娘(おやこ)についてのくわしい事情を私からお話することはできませんけれど、お探しになりたいということでしたら、だいたいの住所は聞いております」
「なんとなくご事情はお(さっ)しいたします。私の想像が当たっておりましたら、お血筋(ちすじ)は大君に(おと)る人でしょうが、このまま悲しみに(しず)んでいるよりはその人を人形にしてみたいと思うのです。くわしいことを教えてくださいませ」

薫の君がしつこくお尋ねになるので、中君は仕方なく少しだけお話しになった。
「血がつながっていることを父宮様はお認めにならなかったのです。私がこんなふうに打ち明けてしまうのも口が軽いようですけれど、あなた様が姉君の像をつくらせたいとまでおっしゃいましたから、ついお話ししてしまいました。

その娘は、母親が地方長官と結婚いたしましたので、田舎(いなか)で育ったそうにございます。それを母親が気の毒に思い、私に娘の将来を相談する手紙を送ってまいりました。どう返事したものかと悩んでおりますうちに、しびれを切らして娘と訪ねてきたのです。
物越しにちらりと見ただけですが、娘は思っていたよりは見苦しくないようでした。ふつうの血筋とは違う娘をこの先どうしてやったらよいかと母親は悩んでおりました。たとえ身代わりの人形であっても、あなた様にかわいがっていただけるなら、この上ない幸運だとよろこびましょう。それともここまでお聞きになりましたら、ご自分にはふさわしくない身分の娘だと軽蔑(けいべつ)なさいましたか」