野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

(かおる)(きみ)は何をお話しになっても、大君(おおいぎみ)のことが思い出されて仕方がない。
「幼いころから出家(しゅっけ)したいと思っておりました。しかし、あなた様の姉君(あねぎみ)とお近づきになったことで、その気持ちが変わったのです。お亡くなりになってから、他の女性と親しくなれば悲しみも(まぎ)れるだろうかと、あちこちの女性に声をかけてみたのですが、他の人ではまったく駄目(だめ)でした。

そんなふうにもがいていた私のことを、あなた様は好色(こうしょく)だと思っていらっしゃるのでしょう。たしかに()められたことではなく、お恥ずかしいかぎりですが、あなた様に対してはそのような気持ちは(いだ)いておりません。ただこちらをお訪ねしたときに、気がねなく話し合えるお相手でいていただきたいのです。そのくらいのことなら匂宮様だってお止めになれませんでしょう。私は世間の浮気男とはまったく違います。どなたに聞いていただいても(かま)いません。どうぞご安心くださいませ」
と、(うら)んだり泣いたりしながら申し上げなさる。

「ご信頼しておりますよ。そうでなければこれほど近くで直接お話などいたしません。長年、いろいろなことであなた様のご厚意(こうい)に感謝しておりました。特別に頼りにできる方と思って、先日は私から折り入ってご相談をさせていただいたほどです」
「あの程度のご相談を(うけたまわ)ったからといって、信頼していただいていると言えますかどうか。さも重大な信頼の(あかし)のようにおっしゃいますが、宇治(うじ)へのお(とも)をお命じくださっただけではありませんか。いえ、そのように申し上げては恐れ多うございますね。私の誠意をお認めくださったからこそのご命令ですから、(つつし)んでお仕えさせていただく所存(しょぞん)でございます」
薫の君は皮肉(ひにく)をおっしゃる。
まだお続けになりたいところだけれど、近くに女房もいるのでここまでになさった。