野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

(かおる)(きみ)も苦しんでいらっしゃる。
恋心が押さえきれなくなって、先日と同じように夕方お越しになった。
前回のことに()りた中君(なかのきみ)は、縁側(えんがわ)ではなく、これまでどおり()(えん)に客席をご用意させなさる。
その上で、
「ひどく具合が悪いものですから、お話はできません」
女房(にょうぼう)を通じておっしゃった。

薫の君はおつらくて涙までこぼれそうなのを、人目(ひとめ)を気にして我慢(がまん)なさる。
何気(なにげ)ないふうを(よそお)って、後見(こうけん)役らしくおっしゃった。
「ご病気のときは僧侶(そうりょ)薬師(くすし)でさえもっとおそばに上がるのです。私がそれより下の(あつか)いを受けるのでは、ご後見のしがいがありません」

先日のおふたりを見ていた女房が気を回す。
<あの夜は、薫の君が(すだれ)のうちにお入りになってまで、何かお話しなさっていた。いつもご親切に後見してくださる方なのだから>
と薫の君の味方をして、中君に申し上げる。
「このお扱いはお気の毒でございます。やはり縁側に入れてさしあげなされませ」

中君はお嫌だけれど、仕方なく薫の君を縁側にお入れになった。
女房がこれほど言うのに、無理に(こば)んだら(あや)しまれそうだもの。
縁側と中君のお部屋の間には簾をおろしてある。
先日はこの簾をくぐって薫の君が押し入っていらした。
中君はため息をつきながら簾に近づいて、直接お話しになる。