野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

<安心して頼っていただける後見(こうけん)役でいつづけよう>
と思われるのに、中君(なかのきみ)のことがずっと気にかかってお苦しい。
以前よりも丁寧なお手紙をお送りになる。
ともすれば(かく)しきれない恋心を(うった)えなさるから、中君は、
<面倒なことになった>
とお(なげ)きになる。

相手が全然知らない男なら、「正気(しょうき)を失っているのですね」と恥をかかせて追い返すこともできる。
でも、(かおる)(きみ)は昔から後見役として頼ってきた人だもの。
急に仲が悪くなったら、かえって世間にあやしまれてしまう。

中君としても、ご親切な後見ぶりには感謝していらっしゃる。
かといって気持ちが通じ合っているかのように文通するのはよくないような気がなさる。
どうしたらよいだろうかと思い乱れて周りを見回してごらんになるけれど、ご相談相手になりそうな若い女房(にょうぼう)は、みんな最近(やと)われた人なの。
まだ気を許しきっていない女房に打ち明けられるお話ではない。
かといって信頼できる昔なじみの女房は、山荘(さんそう)から連れてきた年寄りばかり。

共感しながら話し合える人がいなくて、中君は大君(おおいぎみ)を思い出していらっしゃる。
姉君(あねぎみ)が生きていらっしゃったらご相談できたのに。でも姉君がいらっしゃれば、薫の君はこんな下心(したごころ)を私に(いだ)かれなかったはずだ>
大君がお亡くなりになったことがつくづくお悲しい。
匂宮(におうのみや)様が(ろく)(きみ)に夢中で冷たくなられることよりも、薫の君の恋心を苦しくお思いになる。