野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

翌朝はのんびりと朝寝坊なさった。
(みや)様はご自分のお部屋にはお戻りにならず、中君(なかのきみ)身支度(みじたく)を整え、ご朝食を召し上がる。
六条(ろくじょう)(いん)では輝くほど豪華な家具に囲まれていらっしゃったの。
こちらのお屋敷ののどかな雰囲気にほっとなさる。
あちらの女房(にょうぼう)たちはめずらしすぎる着物を着ていたけれど、こちらは着慣れたものを着て、落ち着いて働いている。

中君は優しい色のお着物をゆったりとお召しになっている。
何もかも完璧に整えられた(ろく)(きみ)のお美しさと比べても、けっして(おと)らない。
むしろ宮様としては、ご愛情がより深い分、中君の方が優美(ゆうび)だとご覧になる。

姫君(ひめぎみ)らしくふくよかだったお体は、つわりで少しおやせになっている。
お肌はますます白くなって、上品でお美しい。
(かおる)(きみ)(うつ)()の件はまだ本当のところが分からないけれど、それでも特別に魅力(みりょく)的な人だと宮様はお思いになる。

<こんな人に男が近づいて、声や気配(けはい)を聞いてしまったら、恋をせずにはいられないだろう。薫の君のように思いを(つの)らせて当然だ>
と、好色(こうしょく)なご自分の基準でお考えになる。
それからは中君に言い寄る男がいるのではないかと警戒(けいかい)なさって、お部屋の(たな)や箱をさりげなく(のぞ)いてごらんになるの。
恋文などが(かく)されていないかお探しになるけれど、そんなものはない。

薫の君からのお手紙はいくつかあったけれど、どれも真面目で事務的な内容のものばかり。
<この他にもあるのではないか>
とご不安になるのも、とくに今日は仕方がないかもしれないわね。
<薫の君もまた魅力のある人なのだ。男の()()ちが分かる女ならくらりとするに決まっている。中君が嫌がるはずがない。お似合いのふたりだから、お互い愛し合っているのでは>
切なくて腹立たしくてねたましい。

ご安心できないので、その日も二条の院にお泊まりになった。
六条の院の六の君には、お手紙を二度も三度もお送りになる。
「よくもまぁ短い間にお話しになりたいことが積もるものですね」
と、中君の(ろう)女房(にょうぼう)たちは皮肉(ひにく)を言っている。