野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

「これだけ(かおる)(きみ)の香りがしみついているということは、薫の君と男女の関係になったのだろう」
ずけずけとおっしゃるので、中君(なかのきみ)はもう消えておしまいになりたい。
「私はあなたを特別に愛しているというのに。私の新しい結婚に腹を立てて、それならいっそ自分から捨ててやろうとお考えになったのですか。そんなことは身分の低い女のすることです。それに、しばらく留守がつづいたといっても、私の愛情をお疑いになるほど長い間ではなかったでしょう。意外なほど頼りないお心だな」

ここには書けないような、もっとひどいこともいろいろとおっしゃったわ。
中君は何の言い訳もなさらない。
それがまた宮様には(にく)い。
「あなたに()れた私にまで薫の君の香りがしみついてしまった。自分から(ただよ)う香りに嫉妬(しっと)してしまう」

中君は(だま)ったままだったけれど、<このままではいけない>とやっとお返事なさった。
「一年も夫婦として暮らして、宮様だけを頼りにしておりましたのに。こんなことで浮気と決めつけて私を捨ててしまわれるのですか」
お泣きになるご様子がいじらしい。
<こういう人だから薫の君も放っておけないのだろう>
宮様はおふたりの仲が心配でたまらなくて、想像すると泣いてしまわれる。
浮気っぽい人は感受(かんじゅ)(せい)が豊かなのかしら。

このいじらしさでは、本当にひどい浮気をなさっていたとしても憎みきることはおできにならないでしょうね。
可憐(かれん)でお気の毒だから、(うら)(ごと)も途中でおやめになって、むしろご機嫌をとるようにお話しになった。