野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

<それにしても(かおる)(きみ)(すだれ)のうちへ入っていらっしゃるとは。すっかり油断させられていた。姉君(あねぎみ)と男女の関係になっていなかったとお聞きしたときは、なんという誠実な方だろうと思ったものだけれど。やはり男性である以上、気を許してはいけないのだ。
かろうじて今回は何もなかったけれど、この先のことを考えると、宮様がめったにこちらへお越しくださらないのは不安だ。宮様が私を気にかけてくださっていれば、薫の君も無茶(むちゃ)なことを思いつきはなさらないだろう>

はっきりと口に出してはおっしゃらないけれど、今までよりも宮様にくっついて甘えていらっしゃる。
宮様はますます(いと)しくお思いになる。
ところがその瞬間、ふわりとすばらしい香りがしたの。
ふつうによくある香りではない。
<これは薫の君の香りだ。間違いない>
(こう)にくわしい宮様はすぐにお気づきになった。

「なぜ薫の君の香りがするのだ」
と中君にお尋ねになる。
中君は言い訳をなさりにくい。
昨夜、薫の君が簾のうちに入ってしまわれたことは事実だもの。

お返事をためらっていらっしゃる中君をご覧になって、
<やはりだ。薫の君はきっとこういうことをすると思っていた。中君に()かれないはずがないと心配していたのだ>
とお心が騒ぐ。
薫の君がお帰りになったあと、中君はお着替えをなさっていたのよ。
念には念を入れて下着も取り替えなさったのに、お体の方にまで香りがしみついていたみたい。