野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

六条(ろくじょう)(いん)でのご生活がしばらく続いた匂宮(におうのみや)様は、
中君(なかのきみ)を悲しませて私はいったい何をしているのだ>
と、昨日につづいて二条(にじょう)(いん)へお戻りになった。
中君はおっとりとお迎えなさる。
<新しいご結婚にいじけていると思われたくない。宇治(うじ)へ帰って心を落ち着けるつもりだったけれど、それも駄目(だめ)になってしまった。頼りの(かおる)(きみ)にはとんでもない下心(したごころ)があるようだもの。結局、ここで匂宮様をお待ちするしかない悲しい運命なのだ。それもこれも死ぬまでの間のこと。もう()()きにまかせて(おだ)やかにしていよう>

かわいらしく素直なご様子に宮様はうれしくなって、
「ここ数日どれほど会いたかったことか」
と熱くささやかれた。
宮様は妊婦(にんぷ)を見慣れていらっしゃらないので、少しふくらみはじめた中君のお腹を、(いと)しくめずらしくご覧になる。

気づまりな六条の院に比べて、こちらの二条の院は何もかも気楽でお(なつ)かしい。
深いご愛情をお約束なさるのを、
<どこの男性もこんなふうに口がうまいものなのだろうか>
と中君は冷静にお聞きになっている。
<薫の君もいかにも親切そうなことばかりおっしゃったから、思いやりのある方だと長年信じこんでいた。それがあんな下心がおありだったなんて>
薫の君を頼りにできなくなった今は、疑う気持ちはありながらも、宮様のお約束に少しは期待なさるみたい。