こうして六条の院でのご新婚生活が始まった。
宮様はもう二条の院に気軽にお戻りになることはできない。
親王というご身分では、昼間にお出かけになることも簡単ではないの。
六条の院の春の御殿をご自分のお部屋になさって、ずっとそこにいらっしゃる。
亡き紫の上が幼い匂宮様を特別にかわいがってお育てになった、懐かしい御殿よ。
日が暮れたら暮れたで、夏の御殿の六の君を放ってよそへお出かけになるというわけにもいかない。
中君は匂宮様のお越しを待ち遠しくお思いになっている。
<ある程度は覚悟していたけれど、まさかまったくお越しにならなくなるとは。六の君のように頼りになる親もいないのだから、軽率に結婚などしてはいけなかったのだ>
あの日宇治を出て山道を越えていらっしゃったことが、まるで夢のように思われる。
後悔と悲しみでお心がふつうではなくなる。
<やはりこっそり宇治へ帰ろう。これで結婚生活を終わりにするというのではない。少しの間気晴らしをするだけだ。反抗的な態度でなければ宮様もお許しくださるだろう>
こういうときに頼りにできるのは薫の君しかいらっしゃらない。
恥ずかしいけれどお手紙をお送りになった。
「先日の父宮様の三回忌のこと、山寺の阿闍梨がくわしく知らせてくれました。あなた様のご厚意が残っていたおかげで寂しい法要にならずにすみました。それを思うと感謝してもしきれません。直接お礼を申し上げたいのですが」
と、事務的な紙に真面目に書かれている。
それがまた風情があるの。
大げさな言葉が使われているわけではないけれど、薫の君への感謝がひしひしと伝わる。
<いつもはこちらからお手紙を差し上げても遠慮がちなお返事しかくださらないのに。今回は『直接お礼を』とまでお書きになっている>
めずらしくてうれしくて、薫の君はどきどきなさる。
<匂宮様はやはり二条の院に戻られていないようだ。目新しく派手なものに惹かれる方だからな。中君は寂しくお過ごしなのだろう>
とくにおもしろいわけでもないお手紙を、薫の君は繰り返し繰り返しお読みになる。
お返事は、
「あなた様のお心を乱さないように、とくにお知らせせず私だけで宇治へ参りました。『厚意が残っていた』との仰せは恨めしく存じます。私の厚意は昔のままで、少なくなってなどおりません。くわしいお話はお屋敷に伺って承ります」
と、こちらも事務的な白い紙へ生真面目にお書きになった。
翌日の夕方、薫の君は二条の院へお上がりになった。
中君への恋心をひそかに抱えておいでなので、身支度を念入りになさって、お着物にお香も焚きしめていかれる。
ご愛用の扇にしみついた香りまですばらしい。
宮様はもう二条の院に気軽にお戻りになることはできない。
親王というご身分では、昼間にお出かけになることも簡単ではないの。
六条の院の春の御殿をご自分のお部屋になさって、ずっとそこにいらっしゃる。
亡き紫の上が幼い匂宮様を特別にかわいがってお育てになった、懐かしい御殿よ。
日が暮れたら暮れたで、夏の御殿の六の君を放ってよそへお出かけになるというわけにもいかない。
中君は匂宮様のお越しを待ち遠しくお思いになっている。
<ある程度は覚悟していたけれど、まさかまったくお越しにならなくなるとは。六の君のように頼りになる親もいないのだから、軽率に結婚などしてはいけなかったのだ>
あの日宇治を出て山道を越えていらっしゃったことが、まるで夢のように思われる。
後悔と悲しみでお心がふつうではなくなる。
<やはりこっそり宇治へ帰ろう。これで結婚生活を終わりにするというのではない。少しの間気晴らしをするだけだ。反抗的な態度でなければ宮様もお許しくださるだろう>
こういうときに頼りにできるのは薫の君しかいらっしゃらない。
恥ずかしいけれどお手紙をお送りになった。
「先日の父宮様の三回忌のこと、山寺の阿闍梨がくわしく知らせてくれました。あなた様のご厚意が残っていたおかげで寂しい法要にならずにすみました。それを思うと感謝してもしきれません。直接お礼を申し上げたいのですが」
と、事務的な紙に真面目に書かれている。
それがまた風情があるの。
大げさな言葉が使われているわけではないけれど、薫の君への感謝がひしひしと伝わる。
<いつもはこちらからお手紙を差し上げても遠慮がちなお返事しかくださらないのに。今回は『直接お礼を』とまでお書きになっている>
めずらしくてうれしくて、薫の君はどきどきなさる。
<匂宮様はやはり二条の院に戻られていないようだ。目新しく派手なものに惹かれる方だからな。中君は寂しくお過ごしなのだろう>
とくにおもしろいわけでもないお手紙を、薫の君は繰り返し繰り返しお読みになる。
お返事は、
「あなた様のお心を乱さないように、とくにお知らせせず私だけで宇治へ参りました。『厚意が残っていた』との仰せは恨めしく存じます。私の厚意は昔のままで、少なくなってなどおりません。くわしいお話はお屋敷に伺って承ります」
と、こちらも事務的な白い紙へ生真面目にお書きになった。
翌日の夕方、薫の君は二条の院へお上がりになった。
中君への恋心をひそかに抱えておいでなので、身支度を念入りになさって、お着物にお香も焚きしめていかれる。
ご愛用の扇にしみついた香りまですばらしい。



