儀式が終わると、薫の君は三条のお屋敷にお戻りになった。
お供のひとりが、
「薫の君はどうして大臣様の婿君におなりにならなかったのだろう。いつまでもつまらない独身生活をなさって」
とぼそりとつぶやく。
薫の君は聞こえてしまって、思わず苦笑いなさった。
このお供は薫の君と一緒に帰ってきたところなの。
もう夜遅いから眠いのでしょうね。
宮様のお供は盛大にもてなされて、今ごろ六条の院で気持ちよさそうに眠っているはず。
それを思うとうらやましくなってしまうのも仕方ないわ。
薫の君はお部屋で横になって、今夜の儀式を思い出していらっしゃる。
<ああいうのは気恥ずかしいだろうな。新婦の父親が大げさな顔で座っていて、部屋は明るすぎるほどで、いろいろな客から酒を飲まされる。それでも宮様は品よく対応なさっていたが>
匂宮様の見事なご様子をまぶたに思い浮かべなさる。
<私だって、もし立派に育った娘がいたら匂宮様に差し上げたいと思うだろう。帝や東宮様への入内よりもそちらを選ぶ。しかし近ごろは、匂宮様に姫を差し上げようとしていた貴族たちが、『やはり薫の君の方がよい婿かもしれない』と言い出しているとか。私も捨てたものではないらしい。こんな変わり者で年寄りくさい男なのに>
ずいぶん思い上がっていらっしゃるわね。
<帝まで私を女二の宮様の婿にとお考えらしい。面倒としか思えないのに、本当にそうお決めになったら私はどうしたらよいのだろう。光栄なことではあるが、お引き受けしてよいものか。もし女二の宮様が大君に似ていらっしゃったらうれしいだろうけれど>
そんなことを思いつかれるくらいだから、女二の宮様とのご結婚も多少は期待なさっているみたい。
眠りが浅くてときどき目を覚ましてしまわれる。
ご退屈なので、少し目をかけておられる女房の部屋へ行かれた。
一晩過ごされると、夜明け前にいそいでご自分のお部屋へ戻ろうとなさる。
お屋敷のなかなのだから、もっとゆっくりなさっていてもよいのよ。
でも、そういう気を許したような振舞いを薫の君はなさりたくないのでしょうね。
女房はつらそうに申し上げる。
「恋人扱いもしていただけない身分の私ですのに、半端なご愛情をいただいて、『薫の君にかわいがられているらしい』などと噂されるのはつろうございます」
「表には出さないが心のなかでは大切に思っているのだよ」
気の毒に思ってお慰めになったけれど、ご愛情を表に出していただけない関係であることが女房にはつらいのだもの。
何の慰めにもならないわ。
「さぁ、この空を見てごらん」
戸を押し開けて薫の君はおっしゃる。
「これを見ずにぐずぐずと夜を明かしてはいけない。近ごろはますます眠れない夜が続いていてね。こういう夜明けの空を見ると、この世だけでなくあの世のことまで想像して心が落ち着くのだ」
うまく言いつくろって女房の部屋から出ていかれた。
女性に対して、甘くうっとりすることをおっしゃる方ではないのよね。
でもご態度が優美だから、冷たいとは思われない。
ほんのちょっとお声をかけられただけなのに、どうしてもおそばに上がりたいと願って、お屋敷で奉公している人もいる。
つらいことも多いでしょうね。
お供のひとりが、
「薫の君はどうして大臣様の婿君におなりにならなかったのだろう。いつまでもつまらない独身生活をなさって」
とぼそりとつぶやく。
薫の君は聞こえてしまって、思わず苦笑いなさった。
このお供は薫の君と一緒に帰ってきたところなの。
もう夜遅いから眠いのでしょうね。
宮様のお供は盛大にもてなされて、今ごろ六条の院で気持ちよさそうに眠っているはず。
それを思うとうらやましくなってしまうのも仕方ないわ。
薫の君はお部屋で横になって、今夜の儀式を思い出していらっしゃる。
<ああいうのは気恥ずかしいだろうな。新婦の父親が大げさな顔で座っていて、部屋は明るすぎるほどで、いろいろな客から酒を飲まされる。それでも宮様は品よく対応なさっていたが>
匂宮様の見事なご様子をまぶたに思い浮かべなさる。
<私だって、もし立派に育った娘がいたら匂宮様に差し上げたいと思うだろう。帝や東宮様への入内よりもそちらを選ぶ。しかし近ごろは、匂宮様に姫を差し上げようとしていた貴族たちが、『やはり薫の君の方がよい婿かもしれない』と言い出しているとか。私も捨てたものではないらしい。こんな変わり者で年寄りくさい男なのに>
ずいぶん思い上がっていらっしゃるわね。
<帝まで私を女二の宮様の婿にとお考えらしい。面倒としか思えないのに、本当にそうお決めになったら私はどうしたらよいのだろう。光栄なことではあるが、お引き受けしてよいものか。もし女二の宮様が大君に似ていらっしゃったらうれしいだろうけれど>
そんなことを思いつかれるくらいだから、女二の宮様とのご結婚も多少は期待なさっているみたい。
眠りが浅くてときどき目を覚ましてしまわれる。
ご退屈なので、少し目をかけておられる女房の部屋へ行かれた。
一晩過ごされると、夜明け前にいそいでご自分のお部屋へ戻ろうとなさる。
お屋敷のなかなのだから、もっとゆっくりなさっていてもよいのよ。
でも、そういう気を許したような振舞いを薫の君はなさりたくないのでしょうね。
女房はつらそうに申し上げる。
「恋人扱いもしていただけない身分の私ですのに、半端なご愛情をいただいて、『薫の君にかわいがられているらしい』などと噂されるのはつろうございます」
「表には出さないが心のなかでは大切に思っているのだよ」
気の毒に思ってお慰めになったけれど、ご愛情を表に出していただけない関係であることが女房にはつらいのだもの。
何の慰めにもならないわ。
「さぁ、この空を見てごらん」
戸を押し開けて薫の君はおっしゃる。
「これを見ずにぐずぐずと夜を明かしてはいけない。近ごろはますます眠れない夜が続いていてね。こういう夜明けの空を見ると、この世だけでなくあの世のことまで想像して心が落ち着くのだ」
うまく言いつくろって女房の部屋から出ていかれた。
女性に対して、甘くうっとりすることをおっしゃる方ではないのよね。
でもご態度が優美だから、冷たいとは思われない。
ほんのちょっとお声をかけられただけなのに、どうしてもおそばに上がりたいと願って、お屋敷で奉公している人もいる。
つらいことも多いでしょうね。



