野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

「私が何か悪いことをしたかのようなお書きぶりだな。本当はもうしばらくあなたとのんびり過ごしたかったのに、不本意(ふほんい)なことになってしまった」
(みや)様はあくまでも中君(なかのきみ)を特別な妻と考えていらっしゃるけれど、世間はそうは思わない。

ふつうの貴族なら、正妻(せいさい)とそれ以外の妻の差がはっきりしている。
もし正妻と同じような身分の妻がもうひとり現れたら、正妻は同情されるわ。
でも、匂宮(におうのみや)様の場合は違う。
ゆくゆくは(みかど)におなりになる方だと世間は見ているから、ご身分の高いお(きさき)様が何人もいらっしゃるのが当然なの。
むしろ、そのなかで特別に愛されておられる中君(なかのきみ)はお幸せ者だと(うわさ)しているくらい。

<これまで宮様は私だけにご愛情を向けてくださった。その生活に慣れてしまっていたから、突然こんなことになって動揺(どうよう)しているのだ。昔話に登場する女性はなぜ嫉妬(しっと)などするのだろうかと不思議だったけれど、これは本当に(おさ)えきれない感情だ>
ご自分のことになってはじめて、こういうことだったのかと思い知りなさる。