野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

使者(ししゃ)はみごとな着物を肩にかけて()もれそうになっている。
夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様からいただいたご褒美(ほうび)よ。
中君(なかのきみ)女房(にょうぼう)たちは、(みや)様が今朝、(ろく)(きみ)にお手紙をお送りになったことを知らない。
でも一目(ひとめ)見ただけで、六条(ろくじょう)(いん)から戻ってきた使者だと分かってしまう。
<宮様はいつの間にお手紙をお書きになっていたのかしら>
女房たちは不快(ふかい)に思う。

宮様も気まずい。
<何が何でも隠すべきものではないが、これほど目立つふうにして持ってきたら中君が気の毒ではないか。配慮(はいりょ)の足りない使者だ>
忌々(いまいま)しく思われるけれど、今さらどうしようもない。
女房を通してお手紙をお受け取りになった。

<こうなったからには隠さないでおこう>
宮様はお手紙を開くと、さりげなく中君のおそばにお置きになる。
本当は他の女君(おんなぎみ)のご筆跡(ひっせき)を勝手に見せるのはよくないわ。
今回は養母君(ははぎみ)様の代筆(だいひつ)のようだから、あまり気がねせずにそんなことをなさったの。
<中君に見せても無難(ぶなん)な内容であってほしい>
と、はらはらしながらご覧になる。

「『私の代筆では差し出がましくなりますから』と、ご自身でお書きになるよう六の君にお(すす)めしたのですが、ひどくご気分がお悪いようでして。お心当たりがおありでしょう」
さすが皇族出身の養母君だけあって、上品に美しく書かれている。