野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

匂宮(におうのみや)様は本当は、内裏(だいり)から直接六条(ろくじょう)(いん)へ向かわれるおつもりだったのよ。
でも、内裏から中君(なかのきみ)にお手紙をお送りになったら、そのお返事があまりに健気(けなげ)で、つい二条(にじょう)(いん)へ帰ってしまわれたの。
匂宮様はお手紙に、今日が結婚の日だとはお書きにならなかった。
<あえて知らせないでおこう。気の毒だから>
と、さりげないことだけを書いてお送りになった。
でも、中君は何もかもご存じだもの。
どんなお返事をお書きになったのでしょうね。

二条の院へお戻りになった匂宮様は、いじらしい中君を置いて六条の院へ出かけることなどおできにならない。
あれこれと(なぐさ)めて、ご一緒に月をご覧になる。
中君は悩んでいるそぶりなどお見せにならず、いつもどおりおっとりと振舞っていらっしゃる。
そこへ大臣(だいじん)様のご子息(しそく)がお越しになったの。

無視するのはさすがにご子息がお気の毒だから、六条の院へ出かけようとなさる。
「すぐに帰ってきます。ひとりで月を見るのは縁起(えんぎ)が悪いと言いますから、もうご覧になっていてはいけませんよ。行きたくもないところに出かけるのは苦しい」
そんな言い訳をなさってもまだ気がとがめるようで、目立たないようにそっとお部屋をお出になる。

後ろ姿をお見送りなさった中君は、とくに何かを思われるわけではない。
ただ涙ばかりがこぼれる。
嫉妬(しっと)などという(みにく)い感情が自分にあったとは>
と、情けなくお思いになる。