野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

中君(なかのきみ)大君(おおいぎみ)にそっくりだとお思いになるたびに、(かおる)(きみ)は後悔なさる。
<大君が私と中君の結婚を望まれたときは、まったくそんな気になれなかった。それでためらいもせず中君を(みや)様にお(ゆず)りしたのだ>
中君のことが頭から離れないので、
<あぁ、なんという面倒な心だ。自業(じごう)自得(じとく)ではないか>
と、思いを()ち切ろうとなさる。

大君がお亡くなりになってから、お屋敷ではずっとお(きょう)を読んでいらっしゃる。
母君(ははぎみ)尼宮(あまみや)様は心配になってしまわれた。
この母宮様はいつまでも少女のような方で、普段は周りのことなど気にせずぼんやりなさっている。
それでも、薫の君があまりに仏教の修行(しゅぎょう)にのめりこんでいかれるから、さすがに嫌な予感がしてお尋ねになった。

「まさか出家(しゅっけ)なさるおつもりですか。もう私は先が長くないのですから、生きている間はどうかふつうのお姿でいてください。(あま)の私が出家をお止めしてはいけないけれど、あなたに出家されたら、私は言葉も出ないほど悲しむでしょう。おろおろと(なげ)いて、今以上に(つみ)深い身になってしまうのが恐ろしいのです」

薫の君は母宮様にご心配をおかけしたことを申し訳なくお思いになる。
それから母宮様の前では、悩み事を頭から追い払って、(ほが)らかなふりをなさるようになった。