野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

中君(なかのきみ)もまた姉君(あねぎみ)を深く恋しがっておられるので、(かおる)(きみ)につられてお泣きになる。
言葉はなくても共感がお互いをつないでいく。
「『田舎(いなか)(さみ)しいが、都のような気苦労がなくて住みやすい』と言う人もいるとか。宇治(うじ)におりましたころはそもそも比べることができなかったのですけれど、都に(のぼ)ってようやくその意味が分かりました。またあの静かなところで暮らしたいと願っても(かな)いません。山荘(さんそう)に残っている(べん)(あま)がうらやましゅうございます。
もうすぐ父宮(ちちみや)様の三回(さんかい)()ですから、山寺(やまでら)(かね)も聞きたくて、宇治へ一度戻りたいのです。こっそり連れていってくださいませんか」

「あなた様が一度戻られたところで、山荘が荒れていくのをお止めになることはできません。(はち)(みや)様の三回忌については、山寺の阿闍梨(あじゃり)にすべて指示してありますからご安心くださいませ。お悲しいでしょうが、この機会に山荘はお寺になさったらいかがでしょう。私も荒れていくのを見るのはつろうございますから、亡き父宮様や大君(おおいぎみ)のあの世でのお幸せを祈ってそうなさるのが、一番よいような気がするのです。

どのようにでもあなた様がお決めになりましたら、(つつし)んでお手伝いいたします。よくお考えになってお命じくださいませ。そういうご相談はいくらでも(うけたまわ)りますが、三回忌を口実(こうじつ)に宇治に引きこもってしまおうというお考えはいけません。お心を落ち着けて、どっしりと(かま)えていらっしゃいますように」
軽はずみなことをなされば匂宮(におうのみや)様がお怒りになる。
そんなことをなさってはいけないと、(かおる)(きみ)はご説得なさった。