野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

「秋は何かと考えこんでしまう季節でございますね。気分を(まぎ)らわせようと、実は先日宇治(うじ)へ行ってまいりました。山荘(さんそう)はますます荒れて、見ていてつらいほどでございました。六条(ろくじょう)(いん)も父が亡くなってからずいぶん荒れたのです。女君(おんなぎみ)たちが引っ越されて、女房(にょうぼう)たちも出ていき、なんとも悲しい()(さま)でした。もうこれはおしまいかと思ったころ、夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様がお移りになりましてね。中宮(ちゅうぐう)様の皇子(みこ)様たちもときどきご滞在(たいざい)なさいますから、今はかつてのようなにぎやかなお屋敷に戻っております。

父が亡くなった悲しみも、六条の院が元の姿に戻っていくにつれて(うす)らいでいきました。何事もそういうものかもしれません。そのときはこれ以上ないほど悲しいと思っても、年月が()てば新しい形になって落ち着いてくる。しかしそうは申しましても、私が父を亡くしたのは幼いころで、悲しみというものをよくわかっていたかどうか。大君(おおいぎみ)を失った悲しみはいつまでも忘れられないような気がするのです」
そう言ってお泣きになるお姿に、
姉君(あねぎみ)を深く愛しておられたのだ>
中君(なかのきみ)は感動なさる。