野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

夜が明けていくにつれて風情(ふぜい)ある(きり)が立ちこめる。
ご近所の二条(にじょう)(いん)へはすぐ到着なさったけれど、乗り物のなかで(かおる)(きみ)はふとお気づきになった。
匂宮(におうのみや)様が内裏(だいり)にお泊まりになったのなら、今朝は中君(なかのきみ)女房(にょうぼう)たちものんびり朝寝坊なさっているだろう。まだ窓も開けていないのではないか。戸締りしてあるところに声をかけるのも気が引ける。(うかが)うのが早すぎたな>

一応お屋敷のご様子を見てくるようにお(とも)にお命じになる。
お供は開いている門からなかを(のぞ)くと、
「窓は開いておりまして、女房たちも働いているようでございます」
とご報告した。

それならばと薫の君は乗り物からお降りになる。
(きり)(まぎ)れてお庭へ入っていかれると、女房たちは人の気配(けはい)に気づいた。
宮様のお帰りだろうかと思ったけれど、すばらしくよい香りが(ただよ)ってくる。
朝露(あさぎり)でぬれたお着物から、いつも以上に濃い香りが立っているのね。

「あの香りは薫の君だわ。やはり格別な方でいらっしゃる。落ち着きはらっておられるのが(にく)いけれど」
若い女房たちは色めきだっても、来客にあわてる様子は見せない。
さりげなく優雅に動いて、(すだれ)の奥から薫の君に敷物(しきもの)をお出しした。

()(えん)に座らせていただけるだけでも満足しなければいけないのでしょうが、やはりここでは放り出されたようで気恥ずかしくなってしまいます。こういうお(あつか)いを受けますから、なかなかお伺いしようと思えずご無沙汰(ぶさた)しております」
縁側(えんがわ)までお入れするべきだと、匂宮様も以前おっしゃっていたものね。
でも中君は、宮様から(みょう)嫉妬(しっと)をされるのは避けたい。
それであいかわらず濡れ縁に客席をご用意させなさったの。

「濡れ縁でなければ、どこをお望みでございますか」
女房は薫の君にお尋ねした。
「北側のお部屋へ入れていただけませんか。あなたたち女房が(ひか)えているところです。中君が私をお身内(みうち)扱いしてくださるなら、そのくらいお許しになってもよいはずだ。しかしまぁ、ここに席があるということは、そういうことなのでしょうね。そこまでの信頼はしていただいていないようだから、文句を申し上げるべきではないだろう」

優雅なお姿でご不満を()らされるから、女房たちは味方をしてしまう。
「客席を濡れ縁のままになさるのでしたら、せめて奥様が縁側までお出になって、(すだれ)越しに直接お話しなされませ」
と中君にお(すす)めするの。