野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様は、六の君とのご結婚の前に、匂宮(におうのみや)様が中君(なかのきみ)を二条の院へお移ししたことがおもしろくない。
それでも(ろく)(きみ)裳着(もぎ)をすませると、
「八月には結婚していただきたい」
匂宮(におうのみや)様へお伝えになった。

中君(なかのきみ)(うわさ)を耳になさった。
<やはりそうなるだろうと思っていた。頼りない境遇(きょうぐう)の私だから、きっといつか世間から笑われるような恥ずかしい目に()わされるだろうと不安だったのだ。(みや)様は浮気っぽいご性格だと聞いていたけれど、おそばにいるかぎりではそんなふうにも見えなかった。むしろ将来のことを優しくお約束してくださっていたのに、突然ご冷淡(れいたん)になってしまわれたらどれほど悲しいだろうか。

(とうと)親王(しんのう)様であられるから、ふつうの男性のように古い妻を完全に切り捨てるということはなさらなくても、不安ばかりが増えるだろう。やはり私は不運な人生なのだ。また宇治(うじ)での暮らしに戻るしかない>
これなら宇治から出なければよかったと後悔なさる。
都へ(のぼ)ったのにとぼとぼと宇治へ帰れば、山里(やまざと)の人々に笑われるだろうとお(くや)しい。
父宮(ちちみや)様のご遺言(ゆいごん)(そむ)いて宇治を離れたのは軽率(けいそつ)だった>
と、恥ずかしくもつらくもお思いになる。