披露宴会場を後にした優花は、恵理と淳子と共に最寄り駅へ向かった。
途中のデパートでトイレを借り、三人は二次会に向けて着替えることにした。
ネイビーの上品なフォーマルドレスから、柔らかなアイボリーのニットワンピースへ。
鏡の前に立つと、優花の表情は、さっきまでよりずっと軽やかに見えた。
「ふー、やっと肩の力が抜けたね」
恵理がため息をつく。「二次会って、ほんと気が楽でいいわ。優花も、宏樹とゆっくり話せるといいね」
「ありがとう」
優花は微笑んだが、その胸の奥では、密かな決意が静かに火を灯していた。
駅前で三人はいったん解散した。
恵理は買い物へ、淳子は早めに会場近くのカフェへ。
優花は、二次会が開くまでの少しの時間を、一人で過ごすことにした。
駅前のカフェに入り、窓際の席に座る。
人々が行き交う雑踏を眺めながら、両手で温めたカップの熱が、じんわりと指先に伝わる。
(いよいよ、だ。)
披露宴での出来事が次々と思い返される。
偶然の接触。
ささやかな気遣いへの、宏樹からの「ありがとう」。
二人きりの会話。
メッセージカードを読んだ時の、優しいまなざし。
宏樹は、優花を「昔と変わらない優しい友人」として見ている。
その位置は、恋愛の入り口ではないけれど、確かな信頼の上に築かれていた。
(この“友人”という位置こそが、私のスタートになる。)
優花は、宏樹の変化を思い返した。
仕事に没頭し、趣味を手放し、どこか疲れた影を落とす彼。
その背負うものの重さを、披露宴の中で垣間見た。
もし二次会で、彼がふと本音を漏らす瞬間があったなら——
優花は、その言葉を受け止められる大人でいたかった。
バッグの中に忍ばせていた、小さなメモ帳を取り出す。
仕事で使うためのものだが、もし宏樹が新しい趣味や興味の話をしたら、すぐ記しておけるように。
それは、彼の言葉を誠実に受け止めるための、優花なりの覚悟だった。
時計を見る。
開場まで、あと三十分。
緊張はあったが、それを包み込むように、静かな期待が膨らんでいく。
五年間、優花の心の中で遠い存在だった彼が、
このあと、同じテーブルで、隣の席に座るかもしれない。
優花はコーヒーを飲み干し、そっと立ち上がった。
(行ってきます、あの頃の私。)
過去の自分に静かに別れを告げ、
希望と決意を胸に、優花は二次会へと続く夜の街を歩き出した。
途中のデパートでトイレを借り、三人は二次会に向けて着替えることにした。
ネイビーの上品なフォーマルドレスから、柔らかなアイボリーのニットワンピースへ。
鏡の前に立つと、優花の表情は、さっきまでよりずっと軽やかに見えた。
「ふー、やっと肩の力が抜けたね」
恵理がため息をつく。「二次会って、ほんと気が楽でいいわ。優花も、宏樹とゆっくり話せるといいね」
「ありがとう」
優花は微笑んだが、その胸の奥では、密かな決意が静かに火を灯していた。
駅前で三人はいったん解散した。
恵理は買い物へ、淳子は早めに会場近くのカフェへ。
優花は、二次会が開くまでの少しの時間を、一人で過ごすことにした。
駅前のカフェに入り、窓際の席に座る。
人々が行き交う雑踏を眺めながら、両手で温めたカップの熱が、じんわりと指先に伝わる。
(いよいよ、だ。)
披露宴での出来事が次々と思い返される。
偶然の接触。
ささやかな気遣いへの、宏樹からの「ありがとう」。
二人きりの会話。
メッセージカードを読んだ時の、優しいまなざし。
宏樹は、優花を「昔と変わらない優しい友人」として見ている。
その位置は、恋愛の入り口ではないけれど、確かな信頼の上に築かれていた。
(この“友人”という位置こそが、私のスタートになる。)
優花は、宏樹の変化を思い返した。
仕事に没頭し、趣味を手放し、どこか疲れた影を落とす彼。
その背負うものの重さを、披露宴の中で垣間見た。
もし二次会で、彼がふと本音を漏らす瞬間があったなら——
優花は、その言葉を受け止められる大人でいたかった。
バッグの中に忍ばせていた、小さなメモ帳を取り出す。
仕事で使うためのものだが、もし宏樹が新しい趣味や興味の話をしたら、すぐ記しておけるように。
それは、彼の言葉を誠実に受け止めるための、優花なりの覚悟だった。
時計を見る。
開場まで、あと三十分。
緊張はあったが、それを包み込むように、静かな期待が膨らんでいく。
五年間、優花の心の中で遠い存在だった彼が、
このあと、同じテーブルで、隣の席に座るかもしれない。
優花はコーヒーを飲み干し、そっと立ち上がった。
(行ってきます、あの頃の私。)
過去の自分に静かに別れを告げ、
希望と決意を胸に、優花は二次会へと続く夜の街を歩き出した。

