優花は、乾杯のときに宏樹と交わした言葉を胸の内でそっと何回も呟いた。
ただの近況報告のはずなのに、その奥にある“変化”が、どうしても気になってしまう。
宏樹の落ち着きは、単に年齢を重ねた結果ではない――。
優花にはそう感じられた。
学生時代の宏樹は、どこにいても中心だった。
冗談を言っては大きく笑い、周囲を巻き込むように場を明るくする。
あの頃の彼は、誰よりも自由で軽やかだった。
だが、今の宏樹には静かな影がある。
笑うときも控えめで、言葉の端々に“必要以上に感情を乗せない意識”が感じられた。
(……妙に落ち着いている。)
向かい側のテーブルを見ると、宏樹は友人たちの話に耳を傾けている。
けれど、その視線はどこか遠く――
まるで、別の場所に片足を置いたまま話しているようにも見えた。
表情にはうっすらと疲労の色。
その疲れは、社会で責任を背負った男のものだった。
ふと、彼のネクタイに目が留まる。
深い色味の無地のネクタイ――
以前、街中で見かけたとき「今の宏樹に似合いそう」と一瞬思った、あの色とそっくりだった。
そして、会話の途中で姿勢を傾けたとき、ジャケットの内ポケットからわずかに覗いたストラップ。
小型の一眼レフカメラのものだ。
(カメラ? 宏樹、写真なんて興味あったっけ……?)
かつての宏樹の趣味は、フットサル、バンド、アウトドア。
常に“動き続ける”彼だった。
それが今は、ひとりで静かに向き合う趣味――写真。
その変化は、彼の落ち着きと不思議に繋がっていた。
忙しい日々の合間に、彼は静けさを求めるようになったのかもしれない。
優花は、彼の変化を見つめながら、自分の認識も切り替える必要があると悟った。
宏樹は、優花が憧れ続けた“過去の彼”ではない。
“今の沢村宏樹”として向き合わなくてはならないのだ。
そして――
一番心に残っていたのは、彼が言った「変わらないね」の一言。
それが、過去の優花――
“遠くから見つめるだけの女の子”
という印象を、彼がまだ持っているのではないかという不安を呼び起こした。
だが優花は、ふと気づく。
乾杯の後、彼はわざわざ優花のテーブルに来てくれた。
「ゆっくり話したかった」と言い、
そして優花の仕事に興味を示し、
会話の間じゅう、視線を逸らさなかった。
あの時のまなざしは、
単なる礼儀でも、懐かしさだけでもない。
――“今の相沢優花”という女性を、初めて正面から見ようとしている。
優花にはそう感じられた。
(……よし。)
優花はナイフとフォークを握り直し、深呼吸をした。
彼の変化は不安もくれるけれど、同時に――
過去に縛られない、新しい関係を築くためのチャンスでもある。
向かい側を見ると、宏樹は友人と真面目な表情で話している。
優花はそっと視線を外し、目の前に運ばれてきた色鮮やかなデザートに集中した。
もう、遠くから見ているだけの優花ではない。
二次会という次の“交差点”で――
優花は彼と、ひとりの大人として向き合うのだ。
ただの近況報告のはずなのに、その奥にある“変化”が、どうしても気になってしまう。
宏樹の落ち着きは、単に年齢を重ねた結果ではない――。
優花にはそう感じられた。
学生時代の宏樹は、どこにいても中心だった。
冗談を言っては大きく笑い、周囲を巻き込むように場を明るくする。
あの頃の彼は、誰よりも自由で軽やかだった。
だが、今の宏樹には静かな影がある。
笑うときも控えめで、言葉の端々に“必要以上に感情を乗せない意識”が感じられた。
(……妙に落ち着いている。)
向かい側のテーブルを見ると、宏樹は友人たちの話に耳を傾けている。
けれど、その視線はどこか遠く――
まるで、別の場所に片足を置いたまま話しているようにも見えた。
表情にはうっすらと疲労の色。
その疲れは、社会で責任を背負った男のものだった。
ふと、彼のネクタイに目が留まる。
深い色味の無地のネクタイ――
以前、街中で見かけたとき「今の宏樹に似合いそう」と一瞬思った、あの色とそっくりだった。
そして、会話の途中で姿勢を傾けたとき、ジャケットの内ポケットからわずかに覗いたストラップ。
小型の一眼レフカメラのものだ。
(カメラ? 宏樹、写真なんて興味あったっけ……?)
かつての宏樹の趣味は、フットサル、バンド、アウトドア。
常に“動き続ける”彼だった。
それが今は、ひとりで静かに向き合う趣味――写真。
その変化は、彼の落ち着きと不思議に繋がっていた。
忙しい日々の合間に、彼は静けさを求めるようになったのかもしれない。
優花は、彼の変化を見つめながら、自分の認識も切り替える必要があると悟った。
宏樹は、優花が憧れ続けた“過去の彼”ではない。
“今の沢村宏樹”として向き合わなくてはならないのだ。
そして――
一番心に残っていたのは、彼が言った「変わらないね」の一言。
それが、過去の優花――
“遠くから見つめるだけの女の子”
という印象を、彼がまだ持っているのではないかという不安を呼び起こした。
だが優花は、ふと気づく。
乾杯の後、彼はわざわざ優花のテーブルに来てくれた。
「ゆっくり話したかった」と言い、
そして優花の仕事に興味を示し、
会話の間じゅう、視線を逸らさなかった。
あの時のまなざしは、
単なる礼儀でも、懐かしさだけでもない。
――“今の相沢優花”という女性を、初めて正面から見ようとしている。
優花にはそう感じられた。
(……よし。)
優花はナイフとフォークを握り直し、深呼吸をした。
彼の変化は不安もくれるけれど、同時に――
過去に縛られない、新しい関係を築くためのチャンスでもある。
向かい側を見ると、宏樹は友人と真面目な表情で話している。
優花はそっと視線を外し、目の前に運ばれてきた色鮮やかなデザートに集中した。
もう、遠くから見ているだけの優花ではない。
二次会という次の“交差点”で――
優花は彼と、ひとりの大人として向き合うのだ。

