野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

<こんなにあっけなくお亡くなりになるはずがない。夢ではないか>
(かおる)(きみ)(あか)りを近くに寄せて大君(おおいぎみ)をご覧になる。
お顔はお美しいままで、ただ寝ていらっしゃるだけのようなの。
(せみ)()(がら)のようにこのままとっておきたい>
なんて思ってしまわれるほど、薫の君はふつうではなくなっていらっしゃる。

女房(にょうぼう)たちがご葬儀(そうぎ)支度(したく)を始める。
(ぐし)を整えてさしあげると、ふわりとよい香りが(ただよ)った。
お元気だったころと同じ香りに薫の君のお胸は()めつけられる。
<これほど完璧(かんぺき)な人を忘れることなどできない。仏様が『この世に執着(しゅうちゃく)するな。出家(しゅっけ)してしまえ』とおっしゃっているのだろうか。もしそうならば、仏様、この人のおそろしくゆがんだお顔を見せてくださいませ。この人への愛情が冷めるような何かを見せてくださいませ>

仏様に念じなさっても何も変わらない。
むしろおつらくなるばかり。
<お姿があるからいけないのだ。早く(けむり)にしてしまった方がよい>
と決めて、火葬(かそう)のご準備を急がれる。
皮肉(ひにく)なご愛情よね。

火葬(かそう)()へ行かれても(あし)()りはふらふらとおぼつかない。
(けむり)はたったあれだけか。亡骸(なきがら)と同じように(はかな)げな煙だ>
悲しみながら山荘(さんそう)へお帰りになる。