野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

大君(おおいぎみ)のおそばから人がいなくなったところを()(はか)らって、(かおる)(きみ)は枕もとに近づかれた。
「ご気分はいかがですか。ひたすらご回復をお祈りしておりますのに、お声さえお聞かせいただけないままでは悲しい。私を見捨てて亡くなってしまわれたらどれほどつらいことでしょう」
と泣きながらおっしゃる。

意識が遠くなりながらも、大君はきちんとお顔をお(そで)で隠される。
「少し体調がよくなったら申し上げたいこともあったのですが、もうこのまま死んでいくようですから残念です」
本当に悲しんでいらっしゃるご様子に、薫の君は涙をお止めになれない。
病人の前で弱気なところは見せまいとお思いだったのに、声を上げてお泣きになる。

<私とこの人との間にはどのような因縁(いんねん)があって、これほど愛していながら死に別れなければならないのだろう。いっそ幻滅(げんめつ)するようなところがあれば、この気持ちを冷ますこともできるのに>
何か欠点はないかとじっとご覧になるけれど、ただ可憐(かれん)でお美しくいらっしゃるだけ。

(うで)などは細くなってしまわれて、はかなげに白い。
何枚も重ねた白いお着物ばかりが目立って、なかのお体はいかにも華奢(きゃしゃ)でいらっしゃる。
(ぐし)は見事につやつやとしている。
<どうなってしまわれるのだろうか。もう死の間際(まぎわ)に見えるけれど>
薫の君はこれ以上ないほど()しいとお思いになる。

長い間寝込んでいらっしゃったお姿で、うちとけず恥ずかしそうになさっているのは、派手に着飾った女性よりもはるかにお美しい。
ひとつひとつご覧になっていくにつれて、薫の君は動揺(どうよう)なさる。

「あなたに見捨てられたら私は生きていられません。もし生きながらえてしまったら、出家(しゅっけ)して山奥の寺に入るつもりです。ただ、そうなると中君(なかのきみ)が」
大君にお返事していただきたくて、中君のことを話題になさる。
お顔を(おお)っていたお袖が少し動いた。

「私はなんとなく長生きできないような気がしておりました。あなた様がいくら私に執着(しゅうちゃく)なさっても、私が死ねばそのお気持ちは無駄(むだ)になってしまうだろうと存じまして、妹とのご結婚をお(すす)めしたのです。そのとおりにしてくださっていたらどれほど安心して死ねたことでしょう。それだけはあなた様をお(うら)みいたします」

「私はあなたに執着して苦しむしかなかったのです。中君に心を移すことなどできなかった。こういうことになった今は、あなたのおっしゃるとおりにしていた方がよかったのかもしれないと思わなくもないけれど、どうだろう、それでもやはり私はあなたしか愛せなかっただろう。とはいえそれとは関係なく、中君のお世話はこれからも私がいたします。ご心配いりません」

言葉を()くして(はげ)ましなさるけれど、大君はひどくお苦しみになる。
薫の君は阿闍梨(あじゃり)たちを近くまでお呼びになってお祈りをおさせになる。
ご自身でも仏様に念じていらっしゃる。