大君のおそばから人がいなくなったところを見計らって、薫の君は枕もとに近づかれた。
「ご気分はいかがですか。ひたすらご回復をお祈りしておりますのに、お声さえお聞かせいただけないままでは悲しい。私を見捨てて亡くなってしまわれたらどれほどつらいことでしょう」
と泣きながらおっしゃる。
意識が遠くなりながらも、大君はきちんとお顔をお袖で隠される。
「少し体調がよくなったら申し上げたいこともあったのですが、もうこのまま死んでいくようですから残念です」
本当に悲しんでいらっしゃるご様子に、薫の君は涙をお止めになれない。
病人の前で弱気なところは見せまいとお思いだったのに、声を上げてお泣きになる。
<私とこの人との間にはどのような因縁があって、これほど愛していながら死に別れなければならないのだろう。いっそ幻滅するようなところがあれば、この気持ちを冷ますこともできるのに>
何か欠点はないかとじっとご覧になるけれど、ただ可憐でお美しくいらっしゃるだけ。
お腕などは細くなってしまわれて、はかなげに白い。
何枚も重ねた白いお着物ばかりが目立って、なかのお体はいかにも華奢でいらっしゃる。
お髪は見事につやつやとしている。
<どうなってしまわれるのだろうか。もう死の間際に見えるけれど>
薫の君はこれ以上ないほど惜しいとお思いになる。
長い間寝込んでいらっしゃったお姿で、うちとけず恥ずかしそうになさっているのは、派手に着飾った女性よりもはるかにお美しい。
ひとつひとつご覧になっていくにつれて、薫の君は動揺なさる。
「あなたに見捨てられたら私は生きていられません。もし生きながらえてしまったら、出家して山奥の寺に入るつもりです。ただ、そうなると中君が」
大君にお返事していただきたくて、中君のことを話題になさる。
お顔を覆っていたお袖が少し動いた。
「私はなんとなく長生きできないような気がしておりました。あなた様がいくら私に執着なさっても、私が死ねばそのお気持ちは無駄になってしまうだろうと存じまして、妹とのご結婚をお勧めしたのです。そのとおりにしてくださっていたらどれほど安心して死ねたことでしょう。それだけはあなた様をお恨みいたします」
「私はあなたに執着して苦しむしかなかったのです。中君に心を移すことなどできなかった。こういうことになった今は、あなたのおっしゃるとおりにしていた方がよかったのかもしれないと思わなくもないけれど、どうだろう、それでもやはり私はあなたしか愛せなかっただろう。とはいえそれとは関係なく、中君のお世話はこれからも私がいたします。ご心配いりません」
言葉を尽くして励ましなさるけれど、大君はひどくお苦しみになる。
薫の君は阿闍梨たちを近くまでお呼びになってお祈りをおさせになる。
ご自身でも仏様に念じていらっしゃる。
「ご気分はいかがですか。ひたすらご回復をお祈りしておりますのに、お声さえお聞かせいただけないままでは悲しい。私を見捨てて亡くなってしまわれたらどれほどつらいことでしょう」
と泣きながらおっしゃる。
意識が遠くなりながらも、大君はきちんとお顔をお袖で隠される。
「少し体調がよくなったら申し上げたいこともあったのですが、もうこのまま死んでいくようですから残念です」
本当に悲しんでいらっしゃるご様子に、薫の君は涙をお止めになれない。
病人の前で弱気なところは見せまいとお思いだったのに、声を上げてお泣きになる。
<私とこの人との間にはどのような因縁があって、これほど愛していながら死に別れなければならないのだろう。いっそ幻滅するようなところがあれば、この気持ちを冷ますこともできるのに>
何か欠点はないかとじっとご覧になるけれど、ただ可憐でお美しくいらっしゃるだけ。
お腕などは細くなってしまわれて、はかなげに白い。
何枚も重ねた白いお着物ばかりが目立って、なかのお体はいかにも華奢でいらっしゃる。
お髪は見事につやつやとしている。
<どうなってしまわれるのだろうか。もう死の間際に見えるけれど>
薫の君はこれ以上ないほど惜しいとお思いになる。
長い間寝込んでいらっしゃったお姿で、うちとけず恥ずかしそうになさっているのは、派手に着飾った女性よりもはるかにお美しい。
ひとつひとつご覧になっていくにつれて、薫の君は動揺なさる。
「あなたに見捨てられたら私は生きていられません。もし生きながらえてしまったら、出家して山奥の寺に入るつもりです。ただ、そうなると中君が」
大君にお返事していただきたくて、中君のことを話題になさる。
お顔を覆っていたお袖が少し動いた。
「私はなんとなく長生きできないような気がしておりました。あなた様がいくら私に執着なさっても、私が死ねばそのお気持ちは無駄になってしまうだろうと存じまして、妹とのご結婚をお勧めしたのです。そのとおりにしてくださっていたらどれほど安心して死ねたことでしょう。それだけはあなた様をお恨みいたします」
「私はあなたに執着して苦しむしかなかったのです。中君に心を移すことなどできなかった。こういうことになった今は、あなたのおっしゃるとおりにしていた方がよかったのかもしれないと思わなくもないけれど、どうだろう、それでもやはり私はあなたしか愛せなかっただろう。とはいえそれとは関係なく、中君のお世話はこれからも私がいたします。ご心配いりません」
言葉を尽くして励ましなさるけれど、大君はひどくお苦しみになる。
薫の君は阿闍梨たちを近くまでお呼びになってお祈りをおさせになる。
ご自身でも仏様に念じていらっしゃる。



