野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

日が暮れたので、女房(にょうぼう)(かおる)(きみ)にお食事をお出ししようとする。
「いつものお客席で」
とお願いするけれど、薫の君はそれよりも大君(おおいぎみ)のおそばに行かれたい。
女房は薫の君をご病室へお入れした。
ついたてをはさんだところにお座りになる。
看病(かんびょう)している中君(なかのきみ)はお困りになったけれど、女房たちは薫の君と大君をご夫婦だと思い込んでいるから仕方がない。

(あか)りは遠いところに置いてある。
暗いご病室のなかで、薫の君はついたてを少しずらして奥をお(のぞ)きになった。
二、三人の(ろう)女房(にょうぼう)()()っている。
中君は少し奥へ隠れてしまわれたみたい。
人が少なくていかにも心細いご病室なの。

「どうしてお声だけでも聞かせてくださらないのですか」
薫の君が大君のお手をとっておっしゃった。
大君はか細いお声で、
「意識はあるのですが、声を出すのが苦しくて。しばらくお越しになりませんでしたから、お会いできないまま死ぬのかと悲しゅうございました」
とおっしゃる。

「そんなにお待ちくださっていたとは。もっと早くお訪ねするべきでした」
声を上げて薫の君はお泣きになる。
お顔にそっと()れてごらんになるとお熱がある。
「何の(ばち)が当たったのでしょうね。私にご冷淡(れいたん)になさったことだろうか」
あれこれと耳元でささやかれるから、大君は恥ずかしくてお顔を(そで)(おお)われた。
今にも消えてしまいそうな弱々しいお姿に、薫の君は最悪の想像をしてぞわりとなさる。

「ずっとご看病なさっていてお疲れでしょう。今夜は安心してお休みください。私がお付きしておりますから」
と中君におっしゃった。
ご心配ではあったけれど、何かお考えがあるのかもしれないと中君は奥のお部屋へお移りになる。

薫の君はさりげなく大君のお顔をご覧になる。
恥ずかしく思われるけれど、もう運命だとあきらめておられる。
<私を熱心にお口説(くど)きになりながらも、匂宮(におうのみや)様に比べたらゆったりとして安心できる方でいらっしゃった>
めずらしい男性だとお気づきになっている。

<死んだあと、強情(ごうじょう)な女として薫の君の記憶に残りたくない>
大君はもう、枕もとにぴったりと()()う薫の君を遠ざけることはなさらない。
薫の君は一晩中お薬湯(やくとう)を飲ませようとなさる。
でもまったくお飲みにならないから、
<どうやってお命をつなぎとめたらよいだろうか>
とお悩みになる。