野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

(かおる)(きみ)山荘(さんそう)にお着きになると、お祈りをしているはずの僧侶(そうりょ)たちがいない。
「ご病気から完全に回復なさるまでお祈りを続けよ」
と薫の君はお命じになっていたのに、大君(おおいぎみ)がもう大丈夫だからと帰してしまわれたみたい。
お屋敷のなかは人気(ひとけ)が少なくなっていて、(べん)(きみ)が出てきてご病状(びょうじょう)をお話しする。

「どこが痛いというわけでもなく、それほどひどいご病状でもないのですが、お食事をまったく召し上がらないのです。もともとか弱い方でしたのに、中君(なかのきみ)のご結婚のことでお悩みになり、ちょっとした果物さえ見るのも嫌だとおっしゃることが続きまして。それですっかり弱ってしまわれ、もうご回復の見込みはないように拝見いたします。長生きをしたせいでこんなにつらい目に()うだなんて。どうにか私の方が先に死んでしまいたいと存じます」
言い終えることもできずに泣いている。

「どうしてもっと早く教えてくれなかったのだ。内裏(だいり)でも上皇(じょうこう)様のところでも行事の多い時期で、何日もお見舞いの使者(ししゃ)を出していなかったのが迂闊(うかつ)だった」
後悔なさりながらご病室にお入りになる。
枕もとでお声をおかけになるけれど、大君はもうお話しになれないようでお返事がない。

「これほどの重態(じゅうたい)におなりだったのか。誰も知らせてくれなかったのがつらい。私の気持ちを知らないわけではないだろう」
女房たちをお(うら)みになる。
山寺(やまでら)阿闍梨(あじゃり)や、病気回復のお祈りで有名な僧侶をたくさんお呼びになった。
すぐにお祈りを始めさせるとのことで、薫の君の家来(けらい)たちも手伝いのために都からやって来る。
いろいろな人がばたばたと支度(したく)をする。
先ほどまでの心細い雰囲気とはがらりと変わって、山荘のなかは頼もしい騒がしさで満ちていく。