野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

暗くなってから匂宮(におうのみや)様のお使者(ししゃ)がお手紙を持ってやって来た。
姫君(ひめぎみ)たちは少しほっとなさったけれど、中君(なかのきみ)はすぐにはお読みにならない。
大君(おおいぎみ)がたしなめておっしゃる。
「素直におっとりとお返事をなさい。もし私がこの病気で死んだら、もっとひどい男があなたに言い寄るのではないかと心配なのですよ。宮様がたまにでもお気にかけてくだされば、さすがにそんな男も遠慮して近づいてこないでしょう。そう考えると、冷たい婿君(むこぎみ)でも頼りにはなると思ってしまうのです」

姉君(あねぎみ)は私を残して死んでしまおうとお思いなのですか。なんてひどい」
中君はお着物にお顔をうずめてしまわれた。
そのお背をさするようにして大君はおっしゃる。
父宮(ちちみや)様がお亡くなりになったときに、私の命もすぐ終わるだろうと思いました。実際はそんなふうにうまくいかなくて生きながらえてしまったけれど。その寿命(じゅみょう)がやっと来ようとしているだけです。とっくに覚悟していることなのに、それでもこんなに悲しいのは、ただあなたのご将来が心配だからですよ」

女房(にょうぼう)(あか)りをつけさせて、おふたりでお手紙をお読みになる。
いつものように細々(こまごま)と書かれていて、最後に、
「いつもと同じ寂しい冬の空ですが、今日の時雨(しぐれ)はとくにあなたに会いたくなります」
とあった。
<どこかで聞いたことがあるようなお決まりの文章だ>
宮様のご愛情が感じられなくて大君はがっかりなさる。

中君は姉君のように冷静な判断はおできにならない。
生まれつきお美しいだけでなく、女性から愛される方法を(きわ)めてこられた宮様だもの。
そんな男性に口説(くど)かれて、ぼうっとしない姫君なんていないわ。
お訪ねがなくても宮様のご愛情を信じていらっしゃる。
ただただ恋しくて、
<あれほど将来をお約束してくださったのだから、これで関係が終わってしまうことはないだろう>
とご自分を(はげ)まされる。

「お返事をいただいて、今夜のうちに都に戻りたく存じます」
お使者が()かすので、中君は一言だけお書きになった。
「こちらの山里(やまざと)(あられ)まで降りそうですから、訪ねてくださる方もなく、一日中もの寂しい空を(なが)めております」