野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

ご体調が悪いときにそんな(うわさ)までお聞きになって、大君(おおいぎみ)はもう生きていられる気がなさらない。
<あの人たちにどう言われたって気にする必要はないけれど、それでも聞きたくない>
女房(にょうぼう)たちの声が届かないようにお着物をかぶって寝てしまおうとなさる。

中君(なかのきみ)も物思いに疲れてしまわれたのか、うたた寝をしていらっしゃる。
(うで)を枕にして横になっていらっしゃるのがとてもおかわいらしい。
(ぐし)が豊かにたまっているところなどを大君はほれぼれとご覧になる。
妹君(いもうとぎみ)のことを(いと)しく思えば思うほど、
父宮(ちちみや)様のご遺言(ゆいごん)(そむ)いて不幸な目に()わせてしまった>
と大君は悲しくなってしまわれる。

<あぁ、父宮様。極楽(ごくらく)浄土(じょうど)にいらっしゃるのでしょうか。私たちのことが気がかりで、ご成仏(じょうぶつ)おできにならなかったのではと申し訳なく思っております。さすがに地獄(じごく)()ちてはおられないと信じておりますが、そちらはどのような世界ですか。どのようなところでもかまいませんから、父宮様のおられるところに私たちをお呼びくださいませ。ここまで追いつめられた私たちを放っておいて、夢にさえ現れてくださらないのはひどうございます>
お胸のうちで祈りつづけていらっしゃる。

夕暮れ時には灰色の雲が広がって時雨(しぐれ)が降りはじめた。
お庭を低く吹いていく風の音にも心細くなって、これまでやこれからのことを大君は延々(えんえん)と考えてしまわれる。
そのご様子がとても上品でいらっしゃるの。

白いお着物をお召しで、お(ぐし)はしばらくといていないのに、乱れることなくまっすぐ。
近ごろさらに青白くなったお肌もお美しさを引き立てている。
ぼんやりと遠くをご覧になるお顔を、美しいものが分かる人に見せたいほどよ。