「先日の件でお心を痛めておいででしょう。匂宮様も、宇治までお越しになりながらこちらをお訪ねできなかったことを悔しくお思いです。先日のことも、あれ以来お越しがないことも、宮様にはどうしようもないご事情のためですから、どうか落ち着いていらしてください。焦って恨み言などをおっしゃってはいけません」
「妹はとくに何も申し上げていないようです。ただ私といたしましては、亡き父宮様がご心配なさっていたのはこういうことだったのかと今さら理解いたしまして、妹が気の毒でございます」
お泣きになる気配が簾のむこうから伝わってくる。
薫の君は責任を感じて大君をお慰めなさる。
「ずっと親密なままの夫婦というのは案外少ないものです。そういう世間のふつうをご存じないあなた様たちが、宮様をお恨みになるのは仕方のないことかもしれません。しかし、ここはひとつ耐えてください。ご心配なさることはけっしてないと私は思っております」
熱心におっしゃりながら、<私はいったい何をしているのだ>という気がなさらないでもない。
ご自分の恋は進まないのに、人のお世話ばかりしていらっしゃるのだもの。
夜になると大君のご体調はいっそうお悪くなる。
薫の君はまだお部屋の近くに居座っていらっしゃる。
姉君の苦しそうなご様子を中君は心配なさって、薫の君の方をちらちらとご覧になる。
他人がおそばにいては気になってしまわれるわよね。
女房たちが中君のお気持ちに気づいて、
「やはりいつものお席にお移りくださいませ」
とお願いした。
「ご病気と伺って、居ても立ってもいられず参ったのです。そんな私を追い払おうとなさるのはひどい。こういうときにするべきことを、ここにいる女房たちが仕切れましょうか」
すぐに僧侶を呼んでご病気回復のお祈りをさせよと、薫の君は弁の君にお命じになった。
<みっともないことになってしまった。別に長生きしたいわけでもないのに>
それでもきっぱりとお断りになることはためらっていらっしゃる。
「生きてほしい」という薫の君のご愛情はひしひしと伝わるから、大君は何もおっしゃらない。
結局いつもの客席へ行ってお休みになった翌朝、薫の君は女房を通じて大君にお尋ねなさる。
「少しはご気分がよろしくなりましたか。昨夜の席へ上がってお話しさせていただきたいのですが」
大君からは、
「もう何日も具合が悪いせいでしょうか、今日はひどく苦しゅうございます。しかし、そうまでおっしゃるのでしたら、どうぞこちらへお越しください」
というお返事があった。
<どのようなお具合なのだろう。いつもよりお優しいお返事なのが逆に心配だ>
薫の君は胸がつぶれるような気がなさって、急いでお部屋の近くへ向かわれた。
あれこれ話しかけてごらんになるけれど、大君からのお返事はない。
「苦しくて何も申し上げられません。少しよくなりましたら」
やっとかすかにそれだけ聞こえて、薫の君はお嘆きになる。
さすがにもう居座っていることはおできにならない。
「遠く離れたところにいらっしゃってはやはり不安です。場所を変えれば治る病気もあると申しますから、それを口実に私の屋敷へお移りください」
とおっしゃってから、心配しながらお帰りになる。
山寺の阿闍梨にも、よくよくお祈りを頼んでおかれた。
「妹はとくに何も申し上げていないようです。ただ私といたしましては、亡き父宮様がご心配なさっていたのはこういうことだったのかと今さら理解いたしまして、妹が気の毒でございます」
お泣きになる気配が簾のむこうから伝わってくる。
薫の君は責任を感じて大君をお慰めなさる。
「ずっと親密なままの夫婦というのは案外少ないものです。そういう世間のふつうをご存じないあなた様たちが、宮様をお恨みになるのは仕方のないことかもしれません。しかし、ここはひとつ耐えてください。ご心配なさることはけっしてないと私は思っております」
熱心におっしゃりながら、<私はいったい何をしているのだ>という気がなさらないでもない。
ご自分の恋は進まないのに、人のお世話ばかりしていらっしゃるのだもの。
夜になると大君のご体調はいっそうお悪くなる。
薫の君はまだお部屋の近くに居座っていらっしゃる。
姉君の苦しそうなご様子を中君は心配なさって、薫の君の方をちらちらとご覧になる。
他人がおそばにいては気になってしまわれるわよね。
女房たちが中君のお気持ちに気づいて、
「やはりいつものお席にお移りくださいませ」
とお願いした。
「ご病気と伺って、居ても立ってもいられず参ったのです。そんな私を追い払おうとなさるのはひどい。こういうときにするべきことを、ここにいる女房たちが仕切れましょうか」
すぐに僧侶を呼んでご病気回復のお祈りをさせよと、薫の君は弁の君にお命じになった。
<みっともないことになってしまった。別に長生きしたいわけでもないのに>
それでもきっぱりとお断りになることはためらっていらっしゃる。
「生きてほしい」という薫の君のご愛情はひしひしと伝わるから、大君は何もおっしゃらない。
結局いつもの客席へ行ってお休みになった翌朝、薫の君は女房を通じて大君にお尋ねなさる。
「少しはご気分がよろしくなりましたか。昨夜の席へ上がってお話しさせていただきたいのですが」
大君からは、
「もう何日も具合が悪いせいでしょうか、今日はひどく苦しゅうございます。しかし、そうまでおっしゃるのでしたら、どうぞこちらへお越しください」
というお返事があった。
<どのようなお具合なのだろう。いつもよりお優しいお返事なのが逆に心配だ>
薫の君は胸がつぶれるような気がなさって、急いでお部屋の近くへ向かわれた。
あれこれ話しかけてごらんになるけれど、大君からのお返事はない。
「苦しくて何も申し上げられません。少しよくなりましたら」
やっとかすかにそれだけ聞こえて、薫の君はお嘆きになる。
さすがにもう居座っていることはおできにならない。
「遠く離れたところにいらっしゃってはやはり不安です。場所を変えれば治る病気もあると申しますから、それを口実に私の屋敷へお移りください」
とおっしゃってから、心配しながらお帰りになる。
山寺の阿闍梨にも、よくよくお祈りを頼んでおかれた。



