野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

<これほど美しい人を、よくも今までこんなところに放っておいたものだ。警備(けいび)女房(にょうぼう)も足りない山荘(さんそう)なのだから、好色(こうしょく)な男が来ていたら簡単に横取りされていただろう>
想像なさるだけでも(くや)しくて、ご自分の呑気(のんき)さにぞっとなさる。
いっそ今関係を持ってしまおうかとお思いになるけれど、目の前の大君(おおいぎみ)は言葉にならないほどつらいと思って泣いていらっしゃるの。

<さすがにそれはお気の毒だ。こんな無理やりではなくて、自然とお心がゆるむのをお待ちしよう>
そうお決めになると、大君をなぐさめるようなことをやさしくおっしゃる。
でも、これだけのことをされて、すぐに立ち直れる姫君(ひめぎみ)ではいらっしゃらない。
「こんな下心がおありだとは思わず、常識外れなほどお親しくしておりました。不吉(ふきつ)喪服(もふく)姿までご覧になろうというお心も悲しゅうございますが、これまでの自分の(おろ)かさにもあきれ果てまして、どうにも心を落ち着けられません」
やつれた喪服姿を見られてしまったことを、恥ずかしくつらいとお思いになっている。

「まだお父宮(ちちみや)()が明けていないのにというお(しか)りはごもっともです。しかし、私たちは長く交流を続けてきた仲で、誠意も十分にお見せしたつもりです。それでも喪中(もちゅう)口実(こうじつ)にお(こば)みにならなければなりませんか」
(かおる)(きみ)は、二年前にご姉妹を垣間(かいま)()したことを打ち明けなさった。
大君が(そう)中君(なかのきみ)琵琶(びわ)で合奏なさっていた夜よ。
そこから恋がはじまって思いが(つの)っていったあれこれをお話しになる。

<姿を見られていたなんて。恥ずかしい。そんな恋心がありながら、表面上は真面目ぶっていらっしゃったのだ>
大君はひとつひとつに衝撃(しょうげき)を受けながらお聞きになっている。