野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

もちろん中君(なかのきみ)もつらくお思いになっている。
これまでは、
<たまにお越しになったときは将来のことまでお約束くださる。完全に捨てられてしまうことはさすがにないだろう。お越しが少ないのはいろいろとご事情がおありのようだし>
とご自分を(なぐさ)めていらっしゃった。

でも今回は、長らくご訪問がなくてご不安だっただけでなく、目の前を()(どお)りされてしまわれた。
ご期待なさっていた分、つらくてお(くや)しい。

そのご様子をご覧になって、大君(おおいぎみ)はますますご自分たちの境遇(きょうぐう)(うら)まれる。
<もし妹が、たくさんの女房(にょうぼう)たちに大切に世話されている姫君(ひめぎみ)だったなら。こんな田舎(いなか)のみすぼらしい山荘(さんそう)ではなく、都のきちんとした屋敷に住んでいたなら。そうすれば匂宮様も素通りなどということはなさらなかっただろうに>

ご自分たちは結婚しても幸せにはなれないとお思いになる。
<私も生きつづけていたら似たような目に()うだろう。(かおる)(きみ)が誠実そうに言い寄ってこられるのは、ご自分のものにするまでを楽しんでいらっしゃるだけだ。そうお決めになっているなら、私がいくら(こば)んだところで逃げきれるものではない。
それに女房たちも薫の君の味方だ。妹の不安定な結婚に()りもせず、次は私を薫の君と結婚させようとがんばっている。いつかは無理やり結婚させられてしまうのだろう。

これこそが父宮(ちちみや)様のご心配なさっていたことだったのだ。『人並みな結婚など望まず、死ぬまで宇治(うじ)で暮らしなさい』と何度も何度もおっしゃっていた。結婚すればこういうことになるとお分かりで、私たちにご注意くださったのだ。

そのありがたいご注意に(そむ)いたら、不運な私たちはきっと夫に捨てられるか死に別れる。妹だけでなく姉まで結婚に失敗したらしいなどと世間に笑われるだろう。あの世の父宮様をお苦しめしてはいけない。やはり私だけでも結婚の苦労はせずにおこう。恋におぼれて苦しんだり嫉妬(しっと)したりする前に死んでしまいたい>
こんなことばかりをじっとお考えになっていると、いよいよご体調が悪くなって、お食事も召し上がれない。

ご自分の死後にご心配なのは、やはり中君(なかのきみ)のこと。
<父宮様につづいて私まで亡くしてしまったら、妹は立ち直れるだろうか。美しい妹の世話をして、人並みな人生を送らせてあげたいと思っていたけれど、私が死んだらどうなるだろう。いくら(とうと)親王(しんのう)様とご結婚したといっても、あっけなく捨てられてしまえば、もう貴族社会に居場所はない。独身時代よりもさらに肩身(かたみ)が狭い状態で生きていくことになる。私も妹も、何も楽しいことなく人生を終えるのだろう>
と心細くお思いになる。