去年の春、匂宮様は長谷寺へお参りなさった。
そのときお供をした貴族たちが、山荘の思い出話をしている。
あのときはまだ八の宮様がお元気で、貴族たちは薫の君に連れられて山荘をご訪問したのよね。
「桜が見事だった」
「あれから間もなく八の宮様がお亡くなりになって、姫君たちはお心細くお暮らしだろう」
と、ご姉妹の噂話もする。
匂宮様と中君のご関係をうっすら知っている人もいれば、まだ知らない人もいる。
でも、姫君たちの噂は結構広まっているみたい。
「たいそうお美しいそうだ。それに筝がお上手らしい。亡き八の宮様が熱心にお教えなさったとか」
というようなことを口々に言う。
夕霧大臣様のお若いご子息が、薫の君におっしゃった。
「去年の桜の花盛りに私もお伺いいたしましたが、あの山荘の姫君たちは秋を寂しくお過ごしでしょうね」
薫の君が姫君たちの後見をなさっていることをご存じなの。
「桜が教えてくれるように、花も紅葉も美しいのはほんの短い間だけ。何事も永遠には続かない虚しい世の中です」
と薫の君はお返事なさる。
「秋はもう終わったというのに、山里の紅葉はすばらしく美しくて帰りにくい」
匂宮様のお迎えにいらした大臣様のご長男も、すぐにはご出発できないほど魅力的な景色よ。
「八の宮様がお亡くなりになっても、垣根を這う蔦は宮様をお慕いしつづけているように見えます」
中宮役所の長官は年老いた人だから、八の宮様がお若かったころのことを思い出して泣いている。
「秋が終わって、八の宮様ももうおられないのだから、山荘に寂しい山風が吹かなければよいが」
姫君たちがますます心細くなってしまわれると、匂宮様は涙ぐみながらおっしゃる。
ご事情をなんとなく知っている貴族は、
<亡き八の宮様の姫君のところにお通いだと聞いたが、深く愛していらっしゃるらしい。せっかくここまでお越しになったのに、会えないまま都にお戻りにならなければいけないとはお気の毒だ>
とご同情している。
これほど大げさなお迎えが来てしまった以上、もう山荘へはお寄りになれない。
中国の詩も和歌もたくさん作られたけれど、どなたも酔っていらしたからろくなものはなかったわ。
少しは書き残しておこうかと思ったけれど、どれも今ひとつすぎるからやめておくわね。
そのときお供をした貴族たちが、山荘の思い出話をしている。
あのときはまだ八の宮様がお元気で、貴族たちは薫の君に連れられて山荘をご訪問したのよね。
「桜が見事だった」
「あれから間もなく八の宮様がお亡くなりになって、姫君たちはお心細くお暮らしだろう」
と、ご姉妹の噂話もする。
匂宮様と中君のご関係をうっすら知っている人もいれば、まだ知らない人もいる。
でも、姫君たちの噂は結構広まっているみたい。
「たいそうお美しいそうだ。それに筝がお上手らしい。亡き八の宮様が熱心にお教えなさったとか」
というようなことを口々に言う。
夕霧大臣様のお若いご子息が、薫の君におっしゃった。
「去年の桜の花盛りに私もお伺いいたしましたが、あの山荘の姫君たちは秋を寂しくお過ごしでしょうね」
薫の君が姫君たちの後見をなさっていることをご存じなの。
「桜が教えてくれるように、花も紅葉も美しいのはほんの短い間だけ。何事も永遠には続かない虚しい世の中です」
と薫の君はお返事なさる。
「秋はもう終わったというのに、山里の紅葉はすばらしく美しくて帰りにくい」
匂宮様のお迎えにいらした大臣様のご長男も、すぐにはご出発できないほど魅力的な景色よ。
「八の宮様がお亡くなりになっても、垣根を這う蔦は宮様をお慕いしつづけているように見えます」
中宮役所の長官は年老いた人だから、八の宮様がお若かったころのことを思い出して泣いている。
「秋が終わって、八の宮様ももうおられないのだから、山荘に寂しい山風が吹かなければよいが」
姫君たちがますます心細くなってしまわれると、匂宮様は涙ぐみながらおっしゃる。
ご事情をなんとなく知っている貴族は、
<亡き八の宮様の姫君のところにお通いだと聞いたが、深く愛していらっしゃるらしい。せっかくここまでお越しになったのに、会えないまま都にお戻りにならなければいけないとはお気の毒だ>
とご同情している。
これほど大げさなお迎えが来てしまった以上、もう山荘へはお寄りになれない。
中国の詩も和歌もたくさん作られたけれど、どなたも酔っていらしたからろくなものはなかったわ。
少しは書き残しておこうかと思ったけれど、どれも今ひとつすぎるからやめておくわね。



