野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

<間にあるのは(すだれ)とついたてだけなのに、これが結界(けっかい)のように思えて手も出せないとは、私はあまりに(おろ)(もの)すぎる>
苦々しく思いながらも、落ち着いたふりをして大君(おおいぎみ)の気を引くような世間話をなさる。
あらかじめ大君は女房(にょうぼう)たちに、「近くにいるように」と言っておかれたの。
でも女房たちは、そこまで警戒(けいかい)なさらなくてもと思ったのかしら、近くにはお付きしていない。
奥の方へ下がって寝てしまっている。

大君のいらっしゃるお部屋の(あか)りが消えかかっている。
嫌な予感がしてこっそり女房をお呼びになるけれど、誰も起きてこない。
「なんだか気分が悪くなってまいりました。もう失礼いたしまして、また明け方にお話をさせていただきましょう」
と、ご自分のお部屋へ戻ろうとなさった。

「私ははるばる山道を通ってここまで参ったのです。あなた様とお話しするための苦労と思っておりましたのに、私を置いてお部屋へ戻られては悲しい」
そうおっしゃると、薫の君は簾とついたてをどけて大君の近くにお寄りになった。

大君はお逃げになれない。
<なんというお振舞いだ>
幻滅(げんめつ)しておっしゃる。
「あなた様はいつも『心を開いてほしい』とおっしゃいますが、心を開くというのはこういうことでございますか。信じられないことをなさいますね」
たしなめるご様子も魅力的で、薫の君のお気持ちはますます燃え上がる。

「私はあなた様に心を開いております。それをいつまでもお分かりくださらないから、教えてさしあげようと思ったのです。信じられないこととはいったい何でしょう。私が何かしでかしましたか。何もいたしませんよ。ちょうどここにいらっしゃる仏様に(ちか)ってもよい。
そんなふうにおびえなさいますな。あなた様の嫌がることはしないと決めておりますから、世にもめずらしい愚か者でおりましょう。女房たちもまさかこれだけで済んだとは思わないだろうが」

灯りはしっとりと薄暗くなっている。
大君のお顔にかかったお(ぐし)を払ってご覧になると、思っていらしたとおりのお美しさだった。