野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

美しく飾られた船が宇治(うじ)(がわ)を行ったり来たりする。
楽しそうな音楽も山荘(さんそう)まで聞こえてきた。
若い女房(にょうぼう)たちは川の方の()(えん)に出て、遠くのそのご様子にうっとりしている。
こっそりとしたお出かけと(かおる)(きみ)はおっしゃっていたけれど、とてもそんなふうには見えないほどお(とも)が多い。
宮様が都でどれほど大切にされていらっしゃるかが伝わってくるの。

中国の詩を作る博士もお供している。
黄昏(たそがれ)(どき)になると船を岸につけて、音楽を演奏させながら、それぞれ詩をお作りになる。
貴族たちはいかにも楽しそうにしているけれど、宮様は(うわ)(そら)でいらっしゃる。
<ここまで来ているのに中君(なかのきみ)に会えない。目の前でにぎやかにされるだけでは気分を悪くなさるだろう>

薫の君としても、お供の貴族たちがここまで増えて、浮かれて盛り上がるとは思っていらっしゃらなかった。
このまま宮様を山荘にお連れしたら大騒ぎになってしまう。
もう少し落ち着いてからと宮様にお伝えなさっているところへ、夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様のご長男が正装(せいそう)姿でお越しになった。

実は、このお出かけを中宮(ちゅうぐう)様が知ってしまわれたの。
「たいしたお供も連れずに行かれたらしい。いくらこっそりなさっても世間が気づかないわけがない。(とうと)いご身分にふさわしくないお出かけとして語り継がれてしまう」
いそいでお迎えにあがれとご命令を受けて、たくさんの上級貴族を連れていらっしゃった。
親王(しんのう)様のお出かけとなれば、まぁ、このくらいのお供をそろえるのがふつうなのよね。

宮様も薫の君もこれではもうどうしようもない。
すっかりつまらなくなってしまわれた。
そんなお胸のうちも知らず、貴族たちは呑気(のんき)にお酒を飲んで楽しんでいる。