野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

はるばる宇治(うじ)までお越しになっても、すぐに都へ戻らなければならないことを、匂宮(におうのみや)様もつらくお思いになっている。
都と宇治の距離を姫君(ひめぎみ)たちはよくお分かりになっていない。
<たまにしかお越しくださらないということは、やはりすぐに捨てられて笑い者になるのでは>
と不安に思っていらっしゃる。
それがまた匂宮様にはお苦しい。

こっそり中君(なかのきみ)を引き取れるようなお屋敷が都にあればよいのよね。
でも、こっそりというのは意外と難しい。
ご自宅の二条(にじょう)(いん)にお迎えしたら世間の(うわさ)になるだろうし、六条(ろくじょう)(いん)夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様が夏の御殿(ごてん)にお住まいになっている。
大臣様はご自分の姫君(ひめぎみ)と匂宮様を結婚させたいとお考えだから、そんなところへ中君をお迎えするわけにもいかない。

姫君とのご結婚に()()でない匂宮様を大臣様は(うら)めしく思って、(みかど)明石(あかし)中宮(ちゅうぐう)様にまでご不満をお伝えになる。
ここまで話が大事(おおごと)になると、宮様がそれ以上の女君(おんなぎみ)とのご結婚を望まれないかぎり、このご縁談(えんだん)は進んでいってしまう。
中君が「それ以上の女君」にあたるかどうかは微妙(びみょう)なところなの。
いくら宮家(みやけ)の姫君とはいえ、宇治でひっそりお育ちになったから、世間はそれほどの評価をしていない。

いっそのこともっと低いご身分の女君だったら、女房(にょうぼう)として二条の院でも六条の院でも連れてくることができる。
でも匂宮様は、中君を女房(あつか)いするだなんてまったくお考えにならない。
もし将来ご自分が帝におなりになることがあれば、中宮にしてあげたいとまでお思いになっているのだもの。
ただ、今すぐ中君に華やかな立場を用意しておあげになることはできない。