野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

大君(おおいぎみ)匂宮(におうのみや)様を大切な婿君(むこぎみ)として丁重(ていちょう)にお(あつか)いになる。
一方、(かおる)(きみ)の方は、新婦の身内(みうち)のような人としておもてなしなさる。
それでも客席はこれまでどおりで、婿君とは違ってお部屋のなかへはお入れにならない。
<冷たいお扱いだ>
と薫の君は苦々しくお思いになる。
それもごもっともなので、大君はついたて越しにお会いになった。

「あなた様への思いはもうあふれそうだというのに、いつまでこんなふうにしかお会いくださらないのですか」
薫の君は切々(せつせつ)とお(うら)みになる。
男性というものを少しずつお分かりになってきた大君だけれど、中君(なかのきみ)のご結婚を見て「やはり結婚は悩みの種」と結論をお出しになっている。

<やはり私は結婚はしたくない。愛した人を、必ずいつかひどいと恨むことになる。それが結婚なのだろう。お互いに(にく)むことなく、しこりも残さず、私をあきらめていただきたい>
大君のご意志は強いわ。

薫の君が宮様のことをお尋ねになると、大君はひさしぶりのお越しだと遠回しに打ち明けなさる。
姉君(あねぎみ)としてどれほどご心配していらっしゃるだろうか>
大君がお気の毒で、
「私が拝見している宮様のご様子からして、中君へのご愛情は本物です。ご信頼なさってよいと存じますよ」
保証(ほしょう)なさった。

大君はいつもより親しくお話しになって、一段落したところでさりげなく切り上げようとなさる。
「このご結婚が落ち着いて、私の心配も収まりましたら、またお話しさせていただきましょう」
薫の君に絶対に近づかれたくないという頑固(がんこ)さは感じられないけれど、間の戸の(かぎ)厳重(げんじゅう)にかけられている。
無理やりこじ開けることができないわけではない。
<しかしそんなことをすれば、大君はどれほど(なげ)かれることか。何かお考えがあるのだろう。軽々しく他の男になびくような方ではないのだから、私はただお待ちしていよう>
おっとりとした薫の君は、お心をうまく静めなさる。

「もう少しだけお付き合いください。戸が間にあってはもどかしい。先日のようにお部屋に入れていただけませんか」
「いつも以上にやつれておりますから、あなた様にがっかりされてしまうのが嫌なのです。いっそがっかりされた方が気楽なはずですのにね」
ふふっとかすかにお笑いになった気配(けはい)がした。
一瞬希望が見えたような気がして、薫の君のお心は震える。
<こうして翻弄(ほんろう)されて、私はどうなってしまうのだろう>
結局、直接お会いすることはあきらめて、嘆きながらまたひとりでお休みになった。

匂宮様はまさかそんなことになっているとはご存じない。
「薫の君はこの家の(あるじ)のような顔でのんびりしている。うらやましいことだ」
中君にそうささやいてお笑いになるから、
<姉君と薫の君はご夫婦ではないはずだけれど。どういうことかしら>
女君(おんなぎみ)は不思議に思っていらっしゃる。