野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

夜が明けていくころ、匂宮(におうのみや)様は戸を押しあけて中君(なかのきみ)をお呼びになる。
外を一緒にご覧になると、(きり)が広がっていて、宇治(うじ)(がわ)小舟(こぶね)が行きかうのが見える。
<都とはまったく違う住まいだ>
風流(ふうりゅう)なものを好まれる宮様は、おもしろいとご興味をお持ちになる。

山から少しずつ朝日が見えはじめた。
女君(おんなぎみ)のお顔立ちの美しさがほのぼのと照らされる。
(みかど)中宮(ちゅうぐう)様がこれ以上なく大切になさっている姉宮(あねみや)様も、中君のお美しさには(かな)わないかもしれない。手元に置いてずっと見ていたいような人だ>

荒々(あらあら)しい川音が響く。
(きり)が晴れてくると、ひどく古ぼけた宇治(うじ)(ばし)などがはっきりと見えてきた。
「こんなところでどうやって何年も暮らしていらっしゃったのですか」
宮様は純粋に同情なさって、涙ぐんでおっしゃる。
このお暮らしがふつうだった中君は恥ずかしくお思いになった。