<いくら姉君とはいえ、物慣れた母親のようにてきぱきとお決めになれるはずはないだろう>
それも当然だとお思いになって、薫の君は弁の君とお話をなさる。
「もともと私がこちらへ伺うようになったのは、八の宮様に仏教について教えていただくためだった。それがあるとき、ご寿命を覚悟なさった宮様が、姫君たちのことを私にお頼みになったのだ。『どんなふうでもよいからそなたの考えで世話をしてほしい』というようなことも仰せになった。
八の宮様は姫君が素直に私の言うことをお聞きになると思われていたようだが、ずいぶん頑固でいらっしゃるではないか。他にご結婚相手のあてがあるのではと疑ってしまう。そなたも噂で聞いているだろう、私は変わり者なのだよ。これまで女性に近づきたいなどと思ったことはなかった。それが今では大君とこんなに親しく交流させていただいている。
どうやら世間も私たちの関係に気づきはじめているらしいのだ。どうせご結婚なさるなら、このまま私をお選びいただけないものだろうか。そうすればお父宮のご遺言どおりになる。宮家の姫君と夫婦になりたいというのは、私の身分ではおこがましいかもしれないが、このくらいの身分差の結婚はめずらしくないだろう。
私のことはさておき、中君と匂宮様のご結婚もお許しにならないのはなぜだ。匂宮様のお人柄についてあれほど大丈夫だと申し上げても、まだお認めにならない。結婚させたいとお考えの男が他にいるのではないか。あぁ、分からない、分からない」
お手上げのようにおっしゃる。
こういうとき、調子のよい女房なら求婚者の味方をするのよね。
でも弁の君は違う。
薫の君と匂宮様がご姉妹の理想的なご結婚相手だとは思っているけれど、軽々しくそれを口には出さず、姫君たちのご事情をお話しする。
「こちらのご姉妹は、もともとよその姫様たちとはご性格が違っておいでなのです。『世間の若い女性が結婚しているなら私たちも』とはまったくお考えにならないようでして。宮様がお元気であられたころも貧しい宮家でしたが、これからはさらにひどくなるでしょうから、女房たちのなかにはご結婚を強くお勧めする者もいるのですよ。
『格下の男と結婚させるのは気の毒だと八の宮様はおっしゃっていましたけれど、もうそのご方針でなんとかなる状況ではないのです。今もそんな傲慢なことを申す者がいるとすれば、そちらの方が不忠でございます。いくら尊い宮家の姫君でも、霞を食べて生きていかれることはできないのですから』
と、差し出がましいことを申し上げるのです。お若い姫様たちはそのたびにお悩みにはなりますが、けっしてお考えを変えようとはなさいません。
ただ大君は、中君だけには人並みのご結婚をしてほしいとお望みのようです。長年お親しくして信頼なさっているあなた様に、中君の婿君になっていただけたらとお思いなのです。中君には匂宮様からお手紙が届いておりますけれど、そちらは本気の求婚とは考えていらっしゃいません」
「八の宮様とお約束したのだから、命のあるかぎりは姫君おふたりともお世話するつもりだ。理屈で言えばご姉妹のどちらと結婚しても同じだし、妹君の婿にとお考えくださるのは最高の信頼の証でもある。しかし、そうではないのだよ。何もかもどうでもよいとしか思えないこの世で、私の心に引っかかりつづけているのは大君だ。その気持ちは変えられない。世間によくある、ふらふらとした恋心ではない。
ついたて越しではなく、お顔を拝見しながらお話がしたい。この世の儚さを率直に語り合いたい。私には親しい兄弟がいないから、悲しいことや感動したこと、心配なことを分かち合える人がいない。寂しいのだよ。たくさんの人に囲まれていても、心はいつも孤独なのだ。だからぜひ、こちらの大君に話し相手になっていただきたいと思っている。
他に私がお話しできる女性といえば、上皇様の中宮様と母宮様くらいだが、どちらもご身分の高い方だから、とりとめのない話などをいちいちお聞かせするわけにはいかない。かといってそれ以外の女性は恐ろしいような気がして近づけない。どこかに心が休まる場所がほしい。
しかし私は変わり者で、好色めいたことは恥ずかしくてできないのだ。真剣な恋であればあるほど何も言えなくなってしまう。ただ心のなかで恨んだり苦しんだりして、どろどろとした思いばかり募っていくが、そのほんの一部さえ相手に見せることができない。我ながら面倒な男だな。
まぁ、こういう性格の私でも、仲介役としてはお役に立てると思っている。匂宮様と中君のことは、さすがに悪いようにはしないだろうと安心してお任せいただきたいのだ」
弁の君は何も申し上げられない。
<薫の君と大君はお似合いのご夫婦におなりだろうに>
と思うけれど、おふたりは同じくらいご立派で深いお考えをお持ちなのだもの。
どちらかの味方はできないのよね。
それも当然だとお思いになって、薫の君は弁の君とお話をなさる。
「もともと私がこちらへ伺うようになったのは、八の宮様に仏教について教えていただくためだった。それがあるとき、ご寿命を覚悟なさった宮様が、姫君たちのことを私にお頼みになったのだ。『どんなふうでもよいからそなたの考えで世話をしてほしい』というようなことも仰せになった。
八の宮様は姫君が素直に私の言うことをお聞きになると思われていたようだが、ずいぶん頑固でいらっしゃるではないか。他にご結婚相手のあてがあるのではと疑ってしまう。そなたも噂で聞いているだろう、私は変わり者なのだよ。これまで女性に近づきたいなどと思ったことはなかった。それが今では大君とこんなに親しく交流させていただいている。
どうやら世間も私たちの関係に気づきはじめているらしいのだ。どうせご結婚なさるなら、このまま私をお選びいただけないものだろうか。そうすればお父宮のご遺言どおりになる。宮家の姫君と夫婦になりたいというのは、私の身分ではおこがましいかもしれないが、このくらいの身分差の結婚はめずらしくないだろう。
私のことはさておき、中君と匂宮様のご結婚もお許しにならないのはなぜだ。匂宮様のお人柄についてあれほど大丈夫だと申し上げても、まだお認めにならない。結婚させたいとお考えの男が他にいるのではないか。あぁ、分からない、分からない」
お手上げのようにおっしゃる。
こういうとき、調子のよい女房なら求婚者の味方をするのよね。
でも弁の君は違う。
薫の君と匂宮様がご姉妹の理想的なご結婚相手だとは思っているけれど、軽々しくそれを口には出さず、姫君たちのご事情をお話しする。
「こちらのご姉妹は、もともとよその姫様たちとはご性格が違っておいでなのです。『世間の若い女性が結婚しているなら私たちも』とはまったくお考えにならないようでして。宮様がお元気であられたころも貧しい宮家でしたが、これからはさらにひどくなるでしょうから、女房たちのなかにはご結婚を強くお勧めする者もいるのですよ。
『格下の男と結婚させるのは気の毒だと八の宮様はおっしゃっていましたけれど、もうそのご方針でなんとかなる状況ではないのです。今もそんな傲慢なことを申す者がいるとすれば、そちらの方が不忠でございます。いくら尊い宮家の姫君でも、霞を食べて生きていかれることはできないのですから』
と、差し出がましいことを申し上げるのです。お若い姫様たちはそのたびにお悩みにはなりますが、けっしてお考えを変えようとはなさいません。
ただ大君は、中君だけには人並みのご結婚をしてほしいとお望みのようです。長年お親しくして信頼なさっているあなた様に、中君の婿君になっていただけたらとお思いなのです。中君には匂宮様からお手紙が届いておりますけれど、そちらは本気の求婚とは考えていらっしゃいません」
「八の宮様とお約束したのだから、命のあるかぎりは姫君おふたりともお世話するつもりだ。理屈で言えばご姉妹のどちらと結婚しても同じだし、妹君の婿にとお考えくださるのは最高の信頼の証でもある。しかし、そうではないのだよ。何もかもどうでもよいとしか思えないこの世で、私の心に引っかかりつづけているのは大君だ。その気持ちは変えられない。世間によくある、ふらふらとした恋心ではない。
ついたて越しではなく、お顔を拝見しながらお話がしたい。この世の儚さを率直に語り合いたい。私には親しい兄弟がいないから、悲しいことや感動したこと、心配なことを分かち合える人がいない。寂しいのだよ。たくさんの人に囲まれていても、心はいつも孤独なのだ。だからぜひ、こちらの大君に話し相手になっていただきたいと思っている。
他に私がお話しできる女性といえば、上皇様の中宮様と母宮様くらいだが、どちらもご身分の高い方だから、とりとめのない話などをいちいちお聞かせするわけにはいかない。かといってそれ以外の女性は恐ろしいような気がして近づけない。どこかに心が休まる場所がほしい。
しかし私は変わり者で、好色めいたことは恥ずかしくてできないのだ。真剣な恋であればあるほど何も言えなくなってしまう。ただ心のなかで恨んだり苦しんだりして、どろどろとした思いばかり募っていくが、そのほんの一部さえ相手に見せることができない。我ながら面倒な男だな。
まぁ、こういう性格の私でも、仲介役としてはお役に立てると思っている。匂宮様と中君のことは、さすがに悪いようにはしないだろうと安心してお任せいただきたいのだ」
弁の君は何も申し上げられない。
<薫の君と大君はお似合いのご夫婦におなりだろうに>
と思うけれど、おふたりは同じくらいご立派で深いお考えをお持ちなのだもの。
どちらかの味方はできないのよね。



