野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

匂宮(におうのみや)様はいそいでお手紙をお送りになる。
山荘(さんそう)では、昨夜のことをご姉妹どちらも現実のこととは思えず、お心を乱していらっしゃる。
中君(なかのきみ)はすべて大君(おおいぎみ)が仕組んだことだと誤解なさっている。
(かおる)(きみ)の次は匂宮様を寝室に入れてしまわれるだなんて。そんな勝手な計画をなさっていたのに、お顔にも出されなかった>
姉君(あねぎみ)をお(うら)みになっておつらくて、目もお合わせにならない。

「私は知らなかったのだ」とも大君はおっしゃらない。
薫の君がご自分への恋を(かな)えるためになさったことだと思えば、中君から恨まれても仕方がないような気がなさる。

事情が飲みこめない女房(にょうぼう)たちは、いつものように大君を頼りにしてお尋ねする。
でも今朝は沈みこんでいらっしゃるから、何があったのか分からないまま。
大君は匂宮様から届いたお手紙を広げて中君にお見せになる。
でも、中君は起き上がりなさらない。
「お返事はまだでしょうか」
とお使者が()かしてくる。

お手紙には、
「世間によくある恋心だとお思いですか。(つゆ)深い道をはるばる宇治(うじ)まで参りましたのに」
とあった。
いかにも恋文を書きなれていらっしゃる、格別に優雅(ゆうが)なお書きぶりよ。
<これまでなら風流(ふうりゅう)なお手紙だと拝見できたけれど、妹の将来がかかっている今はそんな呑気(のんき)なことは思えない。私が後見(こうけん)役ぶってお返事を書くのもよくないだろう。やはり妹に書かせなければ>
と、ふさわしい文面(ぶんめん)を中君に教えておあげになる。

お使者へのご褒美(ほうび)として、華やかな女性用のお着物が出された。
格式(かくしき)高いお使者ならそれでよいのだけれど、今回のお使者は宮様のおそばにお仕えしている少年だから、とても受け取れないと困っている。
結局、お使者の少年ではなく、そのお(とも)で来た人が持ち帰ったわ。

匂宮様はそれをご覧になって、
<こんなに大げさなものを褒美に持たせたら、この屋敷にいる者たちが不審(ふしん)に思うではないか。おそらく昨夜のお節介(せっかい)そうな(ろう)女房(にょうぼう)が勝手にやったのだろう>
といまいましくお思いになる。