野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

人目(ひとめ)につきたくない。暗いうちに都へ戻らなければ>
と、(かおる)(きみ)匂宮(におうのみや)様を()かしてご出発なさった。
仕方なくお帰りになる道のりだから、匂宮様はずいぶん遠いようにお感じになる。
宇治(うじ)が気軽にご訪問できない場所であることは、以前から歯がゆく思われていた。
まして中君(なかのきみ)を恋人になさった今は、一晩だって離れていたくないとお苦しみになる。

家来たちがまだ働きはじめる前にお屋敷にお着きになった。
渡り廊下に乗り物を寄せてお降りになる。
ふだん宮様がお使いになるのとはまったく違う、質素な乗り物よ。
女房(にょうぼう)あたりがお屋敷に戻ってきたような感じでこっそりとお入りになったから、おふたりとも笑ってしまわれる。

「ずいぶんご熱心な(みや)(づか)えでございましたね」
薫の君はご冗談をおっしゃった。
お幸せそうな匂宮様が(ねた)ましくて、ご自分の恋がうまくいかなかったことはお話しにならない。