野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

やっと夜が明けていく気配(けはい)がして、山寺(やまでら)から早朝の(かね)が聞こえる。
匂宮(におうのみや)様はまだお目覚めにならないようだ>
(かおる)(きみ)はご寝室の近くへ行って、(せき)ばらいで合図をなさった。
恋をお(かな)えになった匂宮様とご自分をお比べになると、ご自分がますます(おろ)かに思われる。
大君(おおいぎみ)のところへ戻っておっしゃった。

「初めてこちらへお越しになった宮様は、たいへんご満足なさったようですね。ご案内をした私の方がかえって納得できない夜になって、すごすごと帰ることになりそうです。これこそ信じられない笑い話の種になりそうだ」
「私はあなた様のせいで自分のことも妹のことも心が重うございます。あなた様は自業(じごう)自得(じとく)でいらっしゃいましょう」
大君は小さなお声でお返事なさった。
「そんなことをおっしゃる。あいかわらず私をお(にく)みなさるのだから苦しい」
などといろいろに(うら)(ごと)をおっしゃっているうちに、ほのぼのと夜が明けていった。

そこへ匂宮様が昨夜の戸から出ていらっしゃる。
いかにもご機嫌(きげん)よくゆったりとお動きになるたびに、お着物に濃く()きしめられた香りが広がる。
(ろう)女房(にょうぼう)たちは、薫の君があちらにもこちらにもおいでになって驚く。
昨夜は薫の君を中君(なかのきみ)のご寝室にご案内したつもりだったのだもの。
<では、中君と一晩お過ごしになったのは匂宮様でいらっしゃったのか。どういうおつもりか分からないけれど、薫の君にお(まか)せしておけば悪いようにはなさらないだろう>
と心を落ち着かせる。