「今さら言い訳はいたしません。お詫びは何度でも申し上げますが、気が収まらないとおっしゃるなら、私は何をされてもかまいませんよ。あなた様は尊い匂宮様に惹かれておいでになったのでしょう。それでも運命というものは残酷で、宮様は中君に恋をしていらっしゃるのです。ご同情いたしますが、そのあなた様に恋をしている私はさらにいたたまれない気持ちです。
もうお諦めください。今夜、中君は匂宮様の恋人になられました。一方あなた様は私と一緒にいらっしゃる。この戸をどれほどきちんとお閉めになっていても、私とあなた様の間に本当に何もなかったと思う人はいませんよ。もちろん匂宮様も、まさか私が苦しんだまま夜を明かすとはお思いにならないでしょう」
戸を無理やりこじ開けそうなご様子でおっしゃる。
大君は非常にお怒りだけれど、こういうときに男性を刺激するのは逆効果だと分かっていらっしゃる。
「運命のお話は私には心当たりがございませんが、ただ、何にむかって嘆いたらよいのか分からない涙ばかりがあふれてまいります。私たちをいったいどのようになさるおつもりかと、悪い夢のなかにいるように不安なのです。これが世間の噂になれば、信じられない笑い話として語り継がれましょう。
どうかこれ以上、私に不安も恐怖もお与えにならないでくださいませ。もう死んでしまいそうな気がいたしますが、もし生きながらえることがございましたら、少し落ち着いたころにお返事を申し上げます。気分が非常に悪くなりましたので、今夜はもう休ませていただきとう存じます。袖をお放しくださいませ」
混乱なさっているけれど、しっかり者の大君らしくきちんとお気持ちをお伝えになる。
薫の君は気恥ずかしくなりながらも、そんな大君が可憐で愛しく思われて、必死におっしゃった。
「あなた様を失いたくないのです。あなた様のことばかりを考えているうちに、一途に思いつめた気持ちがこり固まって、このような思いきったことまでしてしまいました。それにご同情いただけないどころか、言いようのないほどお憎みになるのでしたら、私はもうどうしようもありません。ますますこの世が嫌になりました」
懇願するようにお続けになる。
「戸はこのままで結構ですから、どうか私とお話しください。完全に振りきって行ってしまわれますな」
とおっしゃって、お袖を放しておあげになる。
大君はさっと身を引かれたけれど、奥のお部屋へお逃げにはならない。
お優しさと思いやりが薫の君のお心にしみる。
「あなた様がすぐそこにいらっしゃる、そのわずかなご気配だけを心の支えにして夜を明かします。けっして無理なことはいたしません」
薫の君は一睡もおできにならない。
激しい川の音に目が冴えてしまわれる。
山からの風の音が聞こえると、
<雄と雌が分かれて寝るという山鳥も、このような頼りない気持ちなのだろうか>
とご自分と重ねてごらんになって、なかなか夜は明けない。
もうお諦めください。今夜、中君は匂宮様の恋人になられました。一方あなた様は私と一緒にいらっしゃる。この戸をどれほどきちんとお閉めになっていても、私とあなた様の間に本当に何もなかったと思う人はいませんよ。もちろん匂宮様も、まさか私が苦しんだまま夜を明かすとはお思いにならないでしょう」
戸を無理やりこじ開けそうなご様子でおっしゃる。
大君は非常にお怒りだけれど、こういうときに男性を刺激するのは逆効果だと分かっていらっしゃる。
「運命のお話は私には心当たりがございませんが、ただ、何にむかって嘆いたらよいのか分からない涙ばかりがあふれてまいります。私たちをいったいどのようになさるおつもりかと、悪い夢のなかにいるように不安なのです。これが世間の噂になれば、信じられない笑い話として語り継がれましょう。
どうかこれ以上、私に不安も恐怖もお与えにならないでくださいませ。もう死んでしまいそうな気がいたしますが、もし生きながらえることがございましたら、少し落ち着いたころにお返事を申し上げます。気分が非常に悪くなりましたので、今夜はもう休ませていただきとう存じます。袖をお放しくださいませ」
混乱なさっているけれど、しっかり者の大君らしくきちんとお気持ちをお伝えになる。
薫の君は気恥ずかしくなりながらも、そんな大君が可憐で愛しく思われて、必死におっしゃった。
「あなた様を失いたくないのです。あなた様のことばかりを考えているうちに、一途に思いつめた気持ちがこり固まって、このような思いきったことまでしてしまいました。それにご同情いただけないどころか、言いようのないほどお憎みになるのでしたら、私はもうどうしようもありません。ますますこの世が嫌になりました」
懇願するようにお続けになる。
「戸はこのままで結構ですから、どうか私とお話しください。完全に振りきって行ってしまわれますな」
とおっしゃって、お袖を放しておあげになる。
大君はさっと身を引かれたけれど、奥のお部屋へお逃げにはならない。
お優しさと思いやりが薫の君のお心にしみる。
「あなた様がすぐそこにいらっしゃる、そのわずかなご気配だけを心の支えにして夜を明かします。けっして無理なことはいたしません」
薫の君は一睡もおできにならない。
激しい川の音に目が冴えてしまわれる。
山からの風の音が聞こえると、
<雄と雌が分かれて寝るという山鳥も、このような頼りない気持ちなのだろうか>
とご自分と重ねてごらんになって、なかなか夜は明けない。



