野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

「やはり中君(なかのきみ)にお心を移してくださったのだ」
大君(おおいぎみ)はうれしくてお会いになった。
ただし、間の戸はしっかりと閉めて、(かぎ)までかけられている。

「一言申し上げておきたいことがございますが、これでは周りの女房(にょうぼう)に聞こえるほど大きな声を出さなければなりません。少し開けていただけませんか」
(かおる)(きみ)はお願いなさる。
けれど大君は、
「小さなお声でもよく聞こえております」
とおっしゃってお開けにならない。

<心変わりについて一言言い訳をなさりたいのだろう。これまで親しくお話ししてきたのだから、突然冷たくしては話がこじれるかもしれない。感じよくお話を(うかが)って、早く妹の部屋へ行っていただこう>
大君は妥協(だきょう)して戸の近くまでお寄りになった。

戸の少しの隙間から大君のお(そで)が見える。
薫の君はそれをつかむと、引き寄せて(うら)(ごと)をおっしゃる。
<あぁ、また。どうして近づいてしまったのか>
大君は後悔なさる。
<なんとかうまく言いくるめて、お手を離していただかなければ>
とお思いになって、「妹を私と思ってお愛しください」というようなことを遠回しにおっしゃるのが奥ゆかしい。