野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

お屋敷が火事で焼けてしまったあと、(かおる)(きみ)母宮(ははみや)様と六条(ろくじょう)(いん)にお住まいになっている。
匂宮(におうのみや)様も六条の院にお部屋がおありだから、気軽にお訪ねしやすいのよ。
薫の君がいつもお顔をお見せになることを、匂宮様も満足そうになさっている。

匂宮様のお部屋は理想的に優雅(ゆうが)で、お庭も特別な風情(ふぜい)がある。
花の姿も、木や草が風になびく様子も他のところとは一味(ひとあじ)違う。
小川に映った月さえ絵に描いたように美しい。

<こんな月の美しい明け方は起きておいでだろう>
と薫の君が思われたとおり、匂宮様は月を(なが)めていらっしゃった。
薫の君の香りが風に乗って宮様のところまで届いて、はっとお気づきになる。
上着を着て身なりを整えなさると、()(えん)までお出ましになった。

薫の君は濡れ縁に上がる階段の途中でかしこまっていらっしゃる。
「部屋のなかへ」
とはおっしゃらず、宮様もその場にお座りになった。
手すりにもたれて世間話をなさる。

宇治(うじ)姫君(ひめぎみ)たちのことも話題になった。
昨夜のことをご存じない宮様は、
仲介(ちゅうかい)役のそなたは何をしているのだ。中君(なかのきみ)からよいお返事がいただけないが」
とお(うら)みになる。

<自分の恋さえうまく進められず面倒なことになっているのに、ここからどうやって宮様の恋を(かな)えてさしあげたらよいのか>
薫の君は苦々しいけれど、
<そうか、先に宮様と中君をご夫婦にしてしまえば、大君(おおいぎみ)は私に向き合ってくださるかもしれない>
と思いついて、いつもより真剣に匂宮様とお話しなさった。